個別化細分化する闘病情報ニーズ

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夏から、闘病体験バーティカル検索エンジン「TOBYO事典」の改善&アップデートに取り組んできたが、先月リリースの予定がまたまた遅れてしまった。もうしばらく時間がかかりそうだ。今回の改善&アップデートでは、検索精度の向上と検索インデックス拡大を目指している。しかし、検索インデックスが増加するにつれ検索結果の量も増えるわけで、これは「目指す情報に最短で到達したい」というユーザーニーズに反することになる。海外のバーティカル検索エンジンでは、検索結果にフィルタリングオプションをつけるなど様々な工夫があるのだが、TOBYO事典も将来はこれらを導入していきたい。

当面の問題は、検索対象が増加すればするほど検索結果のSN比が下がり、ユーザーの求める情報にたどり着きにくくなることだ。たとえば乳がんの闘病者が、乳がん治療抗がん剤の副作用を調べたいと考えているとしよう。現状、「TOBYO事典」ではすべての検索インデックスを対象に検索を行っているから、乳がん以外の双極性障害や1型糖尿病の闘病ドキュメントまでが検索対象に含まれる。乳がん闘病者は、当然、乳がん闘病ドキュメントだけを検索したいはずなのに、現状では他の疾患の闘病ドキュメントにたまたま書かれた乳がん抗がん剤のページまで検索結果に表示されることになる。 続きを読む

参加型医学(Participatory Medicine)

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昨年あたりから「参加型医学」(Participatory Medicine)という言葉が散見されるようになったが、今年になって米国で参加型医学協会が設立され、来月10月21日からオンライン・ジャーナル「Journal of Participatory Medicine」が刊行される。これはオープンソースの「Open Journal Systems」で編集された電子ジャーナルで、「医学文化をもっと参加型のものに変える」ことをミッションとして、かなり学術的な観点から「患者の医療参加」を研究発表する場として機能するようだ。

この参加型医学協会の母体となったのは「e-Patients.net」 http://e-patients.net/ だが、この団体は以前からそのユニークな活動で知られており、最近はHealth2.0コミュニティとも連携しはじめている。そのせいか、「Journal of Participatory Medicine」のアドバイザリーボードにはアダム・ボスワース、エスター・ダイソン、デヴィッド・キッベなど、Health2.0コミュニティの主要メンバーが名を連ねている。

ところで「e-Patients.net」で以前公開された「e-Patients白書」では、次のような「患者駆動医療:七つの仮説」が掲げられている。これは「参加型医学」の基本原理ともいえるものだが、なかなかに興味深い。 続きを読む

闘病体験配信の多様化: GoogleBooks、Twitter、ビデオ

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TOBYOプロジェクトが目指しているものについて、これまで様々な観点からこのブログでは言及してきたのだが、あらためてシンプルに言ってしまえば

「ネット上のすべての闘病体験ドキュメントを分類整理して可視化し、すべての人が簡単に利用できるようにする」

ということになる。これをめざすべく、私たちはこれまでネット上約1万7千件の闘病サイトや闘病ブログを可視化し、そのうち約1万サイトを横断的に全文検索できるようにした。今後も、ネット上に約三万サイトはあると推定される闘病サイトを、最終的にはすべて可視化していくことになるが、最近、個人サイトやブログだけでない闘病体験の配信が出現してきている。闘病体験配信は多様化しつつあるのだ。TOBYOはこれらについても、いずれ整理分類し可視化し、すべて検索できるようにしていきたい。

まず、Googleブックスがリアル闘病本のネット配信をはじめていることに注目したい。たとえば「闘病記」で検索すると、まだ検索ヒット件数は108点にすぎないが、いくつか興味深いリアル闘病本をオンラインで読むことができる。これらのリアル闘病本は、今のところ文芸社など自費出版を専門に扱う出版社から自費出版されたものがほとんどだが、今後、一般の出版社のリアル闘病本もネット上に公開されてくると思われる。また、本文のうち部分的に割愛されて公開されているものも多いのだが、本文をキイワード検索できるなど、リアル闘病本にはないデジタル化の恩恵を活かしたメリットもあるわけだ。 続きを読む

「2009ウェブトレンド5」と闘病体験の構造化

Richard MacManusgが主催するブログサイト”ReadWriteWeb“で、”ReadWriteWeb’s Top 5 Web Trends of 2009“が発表された。それによると、Top5は次のようになっている。

  1. Structured Data
  2. Real-Time Web
  3. Personalization
  4. Mobile Web / Augmented Reality
  5. Internet of Things

これらはいずれも、今、インターネットで起きている重要なトレンドだろうが、TOBYOプロジェクトに携わってきた当方としては、やはりどうしても最初にあげられているStructured Data(構造化されたデータ)に目が向くのはいたしかたない。TOBYOプロジェクトは言ってみれば「闘病ユニバースに存在するデータを構造化する試み」であるからだ。 続きを読む

進化するPHR: 静的PHRから動的PHPへ

keasここ数年、EMR、EHR、PHRなど医療情報システムの概念定義をめぐり、混乱や議論が続いてきた。このブログでも有力な定義など紹介してきたのだが、どうもまだすっきりした整理ができていないと感じてきた。特に米国のEHR認証問題に関連して、消費者向けにEHRをPHRへ転用すべきだという議論まで出てきており、実はEHRとPHRの区分が不分明になってきている。またヨーロッパでは国営EHRをPHRと同一視するような見方が多い。わが国では「電子私書箱」のような個人レポジトリ構想が繰り返し言及され、PHRなどもこれとセットで語られることが多い。

だが一方には、これら「概念の混乱」や「概念論争」を越えて、実際に稼働し始めたHealth VaultやGoogle Healthがどんどん進化して行っている現実がある。個々ばらばらながらもこれら「PHR」進化は、混乱する概念定義論争を尻目にはるかに先行している。このような状況において、全体を一望睥睨するような視座を持つことは困難だが、ある一つの方向へ徐々に収束しているのを見てとることはできる。PHRに関して言うと、それは従来の「個人医療情報を収集し記録する」という静的レポジトリから、個人が自分の医療情報を活用する動的プラットフォームへ、という方向だと思われる。 続きを読む