闘病サイトと闘病記

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昨日のエントリに記したように、今後、TOBYOプロジェクトは闘病サイト支援事業を何らかの形で立ち上げたいと検討をはじめている。端的に言ってしまえば、私たちが焦点化しているのは「闘病記」ではなくて、インターネットで闘病サイトを運営している闘病者たちだ。

たしかに、闘病サイトには「闘病記」と呼ばれるコンテンツが掲出されているだろうが、両者の関係は

闘病サイト = 闘病記

ではなく、

闘病サイト > 闘病記

であるはずだ。

別の表現をすれば、私たちはたとえば「e-Patients」と呼ばれるようなネットで情報武装された新しい患者像とその行動に注目している。彼らを「闘病記の作者」として見るのではなく、「闘病サイトを活動拠点とするネット闘病者」として見るべきだと考えている。

つまり私たちは、今医療に起こりつつあるまさにネット的な現象と、ネットによってエンパワーされた新たな闘病者像とに関心を持っている。そして、彼らがもっと便利に活動出来るようなツールや、彼らの発した声がもっと広く力強く社会に届くような仕組をTOBYOプロジェクトで実現させたい。

もはや彼らは単なる「闘病記作者」ではなく、もっとアクティブな存在であり、医療全体を変えるパワーを持ち始めたのだ。そこを積極的に評価しなければいけないと思う。

三宅 啓  NITIATIVE INC.

コアデータから事業を切り出す

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ブログを書きながら事業構想を練る、などということは10年前には考えられなかった。だが、現にこのブログで3年間「あーだ、こーだ」と思考実験を繰り返し、試行錯誤を経て自分たちの進路を決定してきた。振り返って過去のエントリを読み返すと、ヨタヨタと不確かな足取りで、時には寄り道や袋小路に迷いながらも、なんとか前進してきたという感が強い。

そして昨日のエントリで、ようやく様々な問題に一応の決着をつけられたのではないかと自分では思っている。「あれもやりたい、これもやりたい」状態を整理し、「TOBYOはこれだけを目指すべきだ」という結論にたどりついた。「ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にする」とのミッションは不変だが、「バーティカル検索エンジンをベースにして、コアデータから医療評価&医療情報サービス事業を切り出す」という事業戦略が加わったわけだ。

この事業戦略の後半だが、具体的には「テキストマイニングと闘病サイト支援」の二点が肝になると考えている。今後具体的に固まり次第、発表していきたい。

三宅 啓  NITIATIVE INC.

開発シーズとしてのコアデータ

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新バージョン「闘病体験バーティカル検索エンジン=TOBYO事典」の公開はずいぶん遅れているが、これは新しいクローラーの開発に時間がかかったことと、将来へ向け大量のデータを処理できるように検索システムの分散化を図ったためだ。バーティカル検索機能を持つだけなら他の選択肢もあるのだが、少々時間はかかっても、自前の検索エンジンを持つことは、TOBYOプロジェクト全体において最も重要な開発ポイントであると考えている。

闘病体験情報は医療のコアデータの一つであるが、ユーザーはバーティカル検索エンジン=TOBYO事典によってこのコアデータを縦横無尽に検索できるようになり、闘病者が病気と戦うための情報探索労力は一挙に軽減されるだろう。私たちはまずこのことを目指している。 続きを読む

メンタルヘルスSNS: Mental Health Social

MentalHealthSocial

メンタルヘルス患者、関係者、業者を対象としたSNS「Mental Health Social」が今月からローンチされた。標準的なSNS機能を一通り揃えているが、ターゲットをメンタルヘルスに絞りこんだこと以外に、これという新機軸は無い。

2006年のDailyStrengthから始まり、米国ではここ二三年の間に多数の医療SNSが登場したが、それも一通り出尽くした感がある。PatientsLikeMeとSermoのめざましい躍進がある一方、昨年発覚したDailyStrengthの行き詰まりと身売り、今年5月のTruseraの撤退など、医療SNSシーンは徐々に明暗をわけはじめている。イスラエルのiMedixなども、英語圏を中心に国際的な集客をしているのだが、今ひとつ伸び悩んでいる。 続きを読む

どうして医療ソフトウェアがタダになるのか?

FREE

話題の書「フリー <無料>からお金を生み出す新戦略」(クリス・アンダーソン)を大変興味深く読んでいる。医療関連のケーススタディとしては、このブログでも紹介した「無料EHR」のPractiseFusion社が取り上げられている。

2007年11月以降、サンフランシスコに拠点を置く新興企業のプラクティス・フュージョン社の無料ソフトウェアに、数千人の医師がサインアップして、電子カルテと医療業務管理ツールのシステムを利用している。そうしたソフトウェア製品は通常5万ドルはする。なぜ同社は電子カルテシステムを無料で提供できるのだろうか?(同書、139ページ)

この問に対する答えは次のようなものである。

データを売るほうが、ソフトを売るよりも儲かる

医師一人当たり250人の患者を受け持つとすれば、最初のユーザー医師2,000人から50万件の医療データが集められる。このデータを匿名化し医学研究機関に売ると1件あたり50ドルから500ドルで売れる。もしも1件あたり500ドルであれば売上総額は2.5億ドルになる。これは医師2,000人に対し、5万ドルのEHRシステムを売って得られる1億ドルよりも大きな収入である。また、PractiseFusion社のEHRはAdSenseなど広告掲載タイプが無料、広告なしタイプが月額使用料100ドルという「フリーミアム+広告」モデルであり、この両者からの収入も加算されるわけだ。 続きを読む