Twitter上の「医師の声」をリスニングするMDigitalLife

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私たちのTOBYOプロジェクトは「ネット上のすべての患者体験を可視化し検索可能にする」とのミッションのもとに、主として闘病ブログなどで公開された「患者の声」を幅広く収集し、様々な人々に届けようと努力してきた。これと同様の発想で、「ネット上に公開された医師の声を集める」というプロジェクトがあっても良さそうだと思っていた。それが最近になって、どうやら米国で始まりそうだ。

昨年、Katherine Chretien医師 を中心とするグループが、Twitter上の医師の声を収集分析した調査報告書「Physicians on Twitter」をJAMAに発表し話題になった。この調査において、Chretien医師はTwitter上で医師が配信したと思われるTweetを収集した上で、523人の医師と推定されるユーザーを特定し、さらに最終的にそれを260人まで絞りこみ、それぞれ一人当たり20件ずつTweetを選び出し、最終的に全部で5,156件のTweetを分析した。ずいぶん手間のかかる調査方法である。

Twitterのようなソーシャルメディアを医師が利用することについては、従来から、医師が患者の情報をもらしたり、差別発言など不適切な発言をするのではと問題視されてきた。しかしこの調査報告によれば、それら問題となるTweetは全体の3%に過ぎなかった。この調査報告書の登場によって、米国医療界ではにわかに「Twitterを利用したオープンな医師の声の共有」という考え方や、「Twitterを医師調査プラットフォームに利用する」というアイデアのリアリティと受容性が高まったと言われている。 続きを読む

反復と新展開


先週から家人が近所の順天堂大学練馬病院に入院しているが、手術は無事終了し、回復も順調でほっとしている。今回、医療サービスの現状を実際に一人の患者家族として体験してみて、あらためてたくさんの気づきや学びを得ることができた。問題は山ほどあるが、とりわけ気になったのは医療現場におけるコミュニケーションの問題である。

なかでも基本は患者家族と医療者のコミュニケーションだが、これをもっと効率的にスムーズに進めることはできないものかと、苛立にも似た思いにかられる場面も少なくなかった。何もそう難しいものではなく、たとえばウェブを上手に利用し情報共有を促進するだけで容易に解決されるものだろうと確信したが、現実問題として、実際に声を上げ手をつけようとする者が医療現場に居ないと感じた。

また医療チームのメンバー間のコミュニケーションだが、それが果たして十分なものかどうか疑問符がつく場面にも遭遇した。今回のケースでは、手術前の外科医と麻酔医の説明がまったく食い違うものであり、患者をはじめ家族全員が困惑せざるをえなかった。業を煮やし「あなたがた医師団のコミュニケーションはきちんと取れているのか?」と当方が詰問する場面もあったのである。患者と家族に不信感を与えるような手術説明会とは、いったい何なのか?

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The Missing Voice of Patients

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昨日のセミナーでも話したが、副作用症状報告について、医師が「患者の声」を過小評価しがちであるとの調査結果がNEJMで二年前に発表されている。“The Missing Voice of Patients in Drug-Safety Reporting”  この調査はニューヨークのスローン・ケタリング記念がんセンターで、ほぼ二年間にわたるがん患者467人の4034回の診察を対象におこなわれた。それぞれの診察で確認された副作用症状について、患者が直接作成した報告書と医師・看護師側が「患者の声」に基づいて作成した報告書の傾向を比較しようというものだ。(Ethan Basch, M.D.N Engl J Med 2010; 362:865-869March 11, 2010)

上のグラフはその調査結果の一部で、副作用症状のうち「疲労」「食欲減退」の累積罹患率を示している。赤線は患者報告、青線は医師・看護師報告に基づいているが、いずれも患者報告の方が医師・看護師報告よりも累積罹患率はかなり高く、しかもその立ち上がり方は急峻であることがわかる。「食欲減退」では医師・看護師側報告ではほとんど罹患が認められないのに対し、患者報告では最終的に40%近い患者が「食欲減退」症状を報告しており、「患者の声」は医師・看護師からほぼ無視されたようなかたちになっている。しかし、患者自身が訴える「食欲減退」感を否定するというのは、一体どう解釈すればよいのであろうか?

かつてある医療セミナーで、講師が「患者のいうことは信用できない」と発言するのを聞いたことがあった。後日、あらためてこの発言を思い出し「とんでもない発言だ」と腹が立ったが、その時、その場で反論せずに黙っていた自分の卑小さを責めるほかなく、たいへん悔しい思いをした。また、闘病ブログを読んでいると、よく遭遇する次のようなシーンがある。患者が医師に対して患部の痛みを訴えたが、医師は「そんなことは、あるはずがない」と患者の痛みを否定し、患者はあたかも自分が嘘をついているかのように医師から非難されたと感じ、患部の痛みに何の処置も施されずに診察室を去る。そんなシーンである。まさかと思われる向きもあろうが、実際、このようなシーンを綴った闘病ブログは少なくないのだ。 続きを読む

セミナー: 「リスニングを医療・医薬マーケティングにどう活かすか?」 7月4日(水)午後2時 参加無料

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昨年来、dimensions開発に伴い、このブログで当方なりにあれこれ思考実験を重ねてきた「ソーシャル・リスニング」ですが、今月、「リッスン・ファースト!」の著者ラパポート氏が来日し、日本マーケティング協会主催の出版記念講演会まで開催されました。これで日本でも、今後「リスニング」が広く社会的に理解され、様々に実践されるのではないかと期待しています。昨年、製薬会社などで「リスニング」と言うと、怪訝な顔をされることも多かったのですが、すでに状況は変わりつつあるとの感を強くしています。

さて、このような時期に、まさに時宜を得たセミナーが7月4日開催されます。当方も、dimensionsを中心にお話させていただく機会を頂戴しました。「次世代マーケティング・リサーチ」の萩原さんとご一緒できるのが光栄です。また主催者のワップ株式会社の東海林さんから、これも新しいマーケティング・リサーチ手法として注目されているMROC(エムロック)のご紹介があります。下記の通りご案内いたしますので、奮ってご参加ください。

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 ●テーマ: 「リスニングを医療・医薬マーケティングにどう活かすか?」

●開催日時: 2012年7月4日(水)14:00-16:40

●開催場所: 秋葉原UDXカンファレンス ルームF

●講師、演題

  • 「リスニングからはじまる新しい顧客理解の技術」
  • 萩原雅之(トランスコスモス株式会社)

  • 「患者の闘病体験をリスニングする」                            ~ソーシャルリスニングツールdimensions~
  • 三宅 啓(株式会社イニシアティブ)

  • 「メディカルリサーチにおけるMROCの事例紹介」
  • 東海林渉(ワップ株式会社)

●参加申し込み:

●参加費:無料

●申し込み: 参加受付ページ

●主催: ワップ株式会社

データ公開によるパワーシフト

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「『オープンであること』が支配力を再分配する。」
「パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ」P282、ジェフ・ジャービス著、NHK出版)

ソーシャルメディアにおいて消費者は、以前は秘匿していたはずのプライベート情報を大胆に公開し始めている。「どこで、どんな商品を、いくらで買ったか。他の商品と比較してその商品の使い心地はどうか、商品に満足しているか」など、以前はわざわざ「消費者調査」を実施し、質問して回答を集めなければ得られなかったようなデータが、今やウェブ上に大量にあふれる状態になっている。すでにウェブ上に公開された情報をていねいに集めれば、あらためてレガシーな「消費者調査」をする必要はなくなっている。

「価格変動、価格差別化、経済指標、商品や店のトレンド。こうした買い物データを小売店の手から取り上げ、その情報を集合としての買い物客の手に渡す---かつて秘密だったその他の公開データと同じように。すると力が消費者に移る。」(同上)

消費者ひとりひとりがソーシャルメディアを通じて自分の買物行動をオープンにしていくと、やがてそれらをアグリゲートし「買い物データベース」として提供するようなサービスが出てくるだろう。従来、流通チェーンはPOSをはじめとする販売データシステムを構築してきたわけだが、これとは逆に、消費者が自分の購買データをウェブに公開することによって、POSなど「販売」側と対抗するようなオープンな「購買データシステム」が出来上がることが考えられる。この購買データシステムによって消費者は、たとえばこれまであまり知り得なかった「売れ筋商品、死に筋商品」などの傾向実態を知って、自分の買い物に活かすことができるようになるだろう。このようにして、消費者のバイイングパワーは強化されるだろう。

これまで消費者は、企業、行政、メディアなどから、さまざまな手法でその意識と行動を計測されデータ化されてきた。そうして集められたデータはすべてが公開されるわけもなく、消費者は自分に関するデータを集められながら、それらデータすべてにアクセスし利用することはできなかった。消費者は「データ収集の対象」であっても、「データを利用するユーザー」ではなかった。自分たちのデータであっても、それを自由に使うことはできなかった。だが、ウェブは消費者に自分たちのデータをオープンにすることを可能にし、それらのデータ集積は、やがて企業、行政などが保有するデータシステムと対抗的に成長していくだろう。

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