Walmartが医療IT市場へ進出

Walmart

3月10日付けNewYorkTimes は、Walmartがこの春からEHR市場に本格参入し、価格破壊を医療IT市場に持ち込むと伝えている。これは、オバマ政権が医療IT化刺激策として総額19億ドルのインセンティブを投じることに照準を合わせたものだ。米国医療のIT化は、特に小規模診療所では遅々として進んでいない。その理由として、高い導入コストと操作の複雑化を医師が嫌ってのことだと言われてきた。昨年実施された調査によれば、米国でEMR/EHRなどを医療現場で使用している医師はわずかに17%である。

WalmartはDellとEMR/EHRベンダであるeClinicalWorksと組み、低コストで高機能なシステムの供給をめざしている。価格だが、従来ベンダが提示していた価格のおよそ半額以下になるという。「われわれは”high-volume, low-cost”の企業である。その精神が、医療業界では悲しいまでに欠落している」と、Walmart医療事業開発部門のシニアディレクターであるマーカス・オズボーン氏は述べている。Walmartはこれまでリテールクリニックやコンビニ薬局など医療分野に着々と参入してきたが、とうとう医療機関や医療者を直接顧客とする市場へ進出することになる。 続きを読む

TOBYOのプロジェクトミッション

現在、TOBYOプロジェクトは検索エンジン「TOBYO事典」の改善に取り組んでいる。思えば昨年9月以来、この仕事を延々続けてきたわけだが、1月10日公開したものをさらにパワーアップすべく調整中である。あと少しでパワーアップ版を公開できるだろう。さて昨春から、TOBYOプロジェクトのミッションについてこのブログで様々に考察してきた。すでにお気づきのとおり、プロジェクトミッションは徐々に変わってきている。

その中でも一番大きな変化は、昨夏あたりに計画していた「量から質へ切り替えていく」との路線を変えたことだと思う。これは、闘病記を1万件集めた時点で実行するはずだったが、結局、さらに拡大させていくことの方を選択した。TOBYOが闘病ユニバースというオープンな巨大コミュニティを想定し、そのインフラツールを目指すとすれば、可視化の対象は1万件で終わらせるのではなく、むしろ闘病ユニバース全体でなければならない。そう考えたからだ。 続きを読む

ある違和感

3月9日の日経朝刊社説「レセプト完全電子化を後退させるな」に対し、賛否両論がネット上のあちこちに散見される。とりわけ「医師ブログ」などからは強い拒否反応が上がっているが、相変わらず匿名で、なぜ逆上までしなければならないか理解に苦しむ。むしろ日経社説は、医療IT化をめぐる常識的な見解を述べているに過ぎないと思える。

このブログでも、過去のいくつかのエントリでレセプトオンライン化など日本の医療IT化の遅滞ぶりを取り上げてきたが、実は米国などでもIT化は遅々として進んでおらず、内外を問わず、なぜこんなに医療者とITは相性が悪いのか。
かつて数年前、厚労省と経産省が共同主催するある公開シンポジウムが開かれた。そのシンポジウムのタイトルは、たしか「医療にITは必要か?」というものであった。とにかくこのタイトル自体に驚いてしまった。いざシンポジウムが始まってみると、その疑念はますます深まるばかりであった。出席パネリストは医師、学者を中心にIT企業、NPO、作家などであったが、なんとこれらの出席者を医療IT化に対する「賛成派」と「反対派」に分け、それぞれの言い分を展開させようというのだから、唖然とするほかなかった。 続きを読む

クラウドソーシングで医療改革

HealthReform

昨年12月、オバマ次期大統領(当時)の政権移行作業チームは、全米市民に米国医療制度改革について、それぞれの地域で「医療地域ディスカッション」を開催し討議に参加するよう呼びかけた。ホリデーシーズンにもかかわらず、この呼びかけに応え、9千人を上回る市民が「ディスカッション」に参加登録し、医療制度改革の討議という共通目的のもとに、家庭、事務所、コーヒーショップ、消防署、大学、地域センターなどに集まった。

全米各地のディスカッション風景

グループ討議のもようはそれぞれの会場ごとにグループレポートにまとめられ、また参加者にはアンケート調査が実施され、それらすべては大統領政権移行チームのウェブサイト「www.change.gov」に集約された。集まった医療改革討議グループレポートは3,276件、アンケート調査票は30,603票に達した。 続きを読む

ビジョンなき「IT戦略」

政府は経済危機に対応した「IT新戦略」を準備しているようだ。その四つの重点分野のうち「医療現場のIT環境強化」というのがあるが、これは明らかにオバマ政権の医療IT強化政策を模倣したものだろう。その中身は次のように報じられている。

医療分野の目玉は、電子化した個人の健康情報を各地の医療機関で共有する『日本健康情報スーパーハイウェイ構想』(仮称)。医療機関同士をつなぐ光ファイバー網を新たに整備。画像診断情報などを瞬時にやりとりできるようにすることで、地域医療や救急医療の改善にもつなげる。(日経3月2日朝刊)

この『日本健康情報スーパーハイウェイ構想』とやらは、そのネーミングのひどさは置いておくとして、どうやらPHRをコアとする新しい医療情報ネットワークを指すらしい。たしかにPHRは、これからの医療情報システムのコアを担うことは間違いない。従来、電子カルテやEHRなど医療機関にフォーカスした情報システムばかりが注目されてきたのだが、医療機関から消費者個人へと優先順位を転倒したPHRの発想は、単に情報システムだけではなく、今後、医療全体が進むべき方向性を指し示していると考えられる。今後の医療は、ますますパーソナル化を強める方向に進化するであろう。 続きを読む