ある違和感

3月9日の日経朝刊社説「レセプト完全電子化を後退させるな」に対し、賛否両論がネット上のあちこちに散見される。とりわけ「医師ブログ」などからは強い拒否反応が上がっているが、相変わらず匿名で、なぜ逆上までしなければならないか理解に苦しむ。むしろ日経社説は、医療IT化をめぐる常識的な見解を述べているに過ぎないと思える。

このブログでも、過去のいくつかのエントリでレセプトオンライン化など日本の医療IT化の遅滞ぶりを取り上げてきたが、実は米国などでもIT化は遅々として進んでおらず、内外を問わず、なぜこんなに医療者とITは相性が悪いのか。
かつて数年前、厚労省と経産省が共同主催するある公開シンポジウムが開かれた。そのシンポジウムのタイトルは、たしか「医療にITは必要か?」というものであった。とにかくこのタイトル自体に驚いてしまった。いざシンポジウムが始まってみると、その疑念はますます深まるばかりであった。出席パネリストは医師、学者を中心にIT企業、NPO、作家などであったが、なんとこれらの出席者を医療IT化に対する「賛成派」と「反対派」に分け、それぞれの言い分を展開させようというのだから、唖然とするほかなかった。

今日、IT化について、「必要かどうか」を論じる必要もなければ、また「賛成」も「反対」もあるわけないではないか。好むと好まざるとにかかわらず、すべての産業社会分野でIT化は進行するだけだ。そして、もうこれは誰も止めることは不可能であり、むしろそのことを所与の環境として、たとえば「医療をどのように変革すべきか」などの方向でしか問題化できないはずだ。だから「医療にITは必要か?」などとタイトルを付した時点で、すでにシンポジウムはアジェンダ設定に失敗している。

そう考えると、こんなシンポジウムに参加している自分自身がバカらしくなり、思わず席を立とうとしたのだが、当日、知人がパネラーとして出ていることもあり、「義理」で長時間付き合うハメとなった。また、進行役は医療者で日本学術会議長(当時)でもあるK氏であったが、これがまた独演会をやり始めたものだからたまったものではない。そして「賛成派」と「反対派」が交互に自説を言い立てるだけで議論はかみあわず、おそろしく非生産的で苦痛な時間を強いられたのである。今思い出しても腹立たしい。

しかし、このシンポジウムで得た収穫もある。それは、医療界とその周辺に対する決定的な違和感を改めて強く認識できたということだ。そしてこの時以来、この「違和感」を決して手放さないでおこうと決心した。冒頭の日経社説のように社会的には常識的と目される見解も、どうやら「医療界とその周辺」では共有されないらしい。そのことを肝に銘じておこう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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