破壊的イノベーションと医療

Christensen

「破壊的イノベーション」(Disruptive Innovation)とは、ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が「イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」(Harvard business school press)で展開した経営コンセプトであるが、先月、今度はこのコンセプトを医療に適用した新著「THE INNOVATOR’S PRESCRIPTION: A Disruptive Solution for Health Care」が発表された。

クリステンセンのこの新著は、早速、New York Timesが「Disruptive Innovation, Applied to Health Care」(1月31日)で取り上げている。またHealth2.0コミュニティでも注目を集めており、中心的論客スコット・シュリーブ氏は、自身のブログでクリステンセンの共著者Jason Hwang氏にインタビューを試みている。 続きを読む

評価と選択

昨日のNHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」をたまたま見た。TOBYO収録のうつ病闘病サイトもすでに1100件を越えており、疾患別に闘病サイトを見れば群を抜いてナンバーワンである。最近の傾向を見ると、ブログが認知行動療法に利用されるケースもあり、うつ病などメンタル系の闘病者による闘病サイトは急増している。

番組ではうつ病の医療提供実態について問題をいくつか取り上げていたが、その中で、特に医師の技量のばらつきの問題は深刻である。ある地域では、地域に存在する心療クリニックをクチコミで評価し、消費者がクリニック評価マップまで作っている例を紹介していたが、医療機関や医療者の技量を評価するデータが開示されていない以上、当然の防衛的な消費者行動と言えよう。むしろこのような評価マップは、ウェブ上で共有されるのが望ましいのではないかと思った。 続きを読む

オープンソース方式で医学調査研究:CureTogether

CureTogether

新しい患者SNSとして登場したCureTogether。一見してPatientsLikeMeと似ているのだが、「open source health researchのプラットフォーム」であることを強調しているところが非常におもしろい。新薬開発、新治療法開発にともなう調査研究を、Linux開発などと同じように、オープンソース方式でやってみようというのである。

HIV/AIDSや癌をはじめ、新薬や新たな治療法の開発が急がれている疾患は多いが、これまでは個別製薬メーカーが、調査研究に莫大な開発費用と時間を投資して開発を進めていたわけである。製薬メーカーにとって開発リスクは大きいものの、いったん開発が成功すれば、特許によって独占的に巨大な利益を上げることが可能であった。だが、これら新薬開発など医学的成果は個別企業が独占するものではなく、広く人類の公共財としてパブリックに共有すべきものだとの批判も一方には存在したのである。知識情報をはじめ医学的成果は、もともとパブリックな性格を有しているはずだからだ。 続きを読む

書評:「ネットで暴走する医師たち」鳥集徹、WAVE出版

本書はいろんな意味で「話題の書」になっているらしい。当方は以前、ネット医師とか医師ブロガーと称される方々のブログをかなり集中して読んでいた時期がある。現状医療制度に対する、医師たちの本音や考え方をブログから把握したいと考えていたからだ。ところがいつのまにやら、継続して読む医師ブログはなくなってしまった。別に積極的な理由はないが、これら医師ブログは広い読者層を想定しているようには見えず、狭い医師社会内部の「内輪話」に終始しているように感じたからだ。また、どうやらマスコミを敵視する点で、これらの医師ブログは共通しているようだが、たとえば頻繁に新聞記事を引用し、その一言一句を重箱の隅をほじくるような執拗さであげつらうその”stickiness”に辟易したためでもある。

米国やヨーロッパの医師ブログは数多く読むが、日本と違うのはそれらすべてが実名で書かれている点だ。日本では実名の医師ブログは圧倒的に少ない。海外では医師のみならず、プロフェッショナルな専門職を持つ人ほど実名でブログを書いている。匿名で書くのは自由だが、匿名ゆえの気楽さは、時として自律性を欠いた言論へと暴走することもあるだろう。本書のテーマはそこにある。 続きを読む

PracticeFusion社の衝撃

先日、NTTPCコミュニケーションズが医療情報サービス企業と組み、診療所向けにEMR(電子カルテ)システムをSaaS(Software as a Service)で提供するとの記事を読んだ。全国約9万件の診療所は、病院のような大規模なEMRを必要としないので、SaaSベースのEMRシステム提供は今後増えるだろう。しかしこの記事を読んで思い出したのは、PracticeFusion社の無料EMRシステムのことである。

米国では最近、改めて「Disruptive Innovation」(破壊的イノベーション)を実現したと同社を評価する声が高まっているが、たしかにPracticeFusionが医療IT市場に与えたインパクトは大きい。何といっても「無料」のEMRである。以前のエントリでも取り上げたことがあるが、従来、既存ベンダが提供する診療所向けEMR価格(初期投資)はおよそ2万ドル。さらにメンテナンスやアップグレードの費用が加算され、医師個人にとって負担は大きく、結局、導入コストがEMR普及の足を引っ張る要因であった。 続きを読む