書評:「パーソナルヘルスレコード—21世紀の医療に欠けている重要なこと」

PHR_book

先日、Health2.0 Tobyo Chapterでお目にかかったNTTデータシステム科学研究所の石榑康雄さんから、石槫さんが訳出された「パーソナルヘルスレコード—21世紀の医療に欠けている重要なこと」(Holly Dara Miller他著、石榑康雄訳、篠原出版新社)をいただいた。この場を借りて献本御礼申し上げます。

目次

序文
第一章:米国医療の危機的問題解消に求められるePHR
第二章:PHRの歴史と背景
第三章:ePHR、PBHR、EMR、EHRの定義・モデル・機能
第四章:市場要因の進化が後押しするePHR需要
第五章:医師と患者とPHR
第六章:PHRアーキテクチャ
第七章:医療参加者ベースのPHRの計画と実装;実践における検討項目
第八章:PHRにかかわる法規制
第九章:PHRビジネスの持続可能モデル
第十章:おわりに

まずは、日本でようやくPHRについてのこのような基本テクストが上梓されたことを喜びたい。これまでPHRに関してまとまった日本語文献は皆無であったが、この本の登場によって体系的かつ網羅的にPHRの基本知識を得ることが可能となった。これから日本でPHRを様々に議論する際、その共通認識としてこの本が利用されることになるだろう。 続きを読む

手術室のiPad


世界で初めてiPadが手術室で利用されたのは、神戸大学医学部附属病院であるらしい。このビデオを見ると、iPadは防水のためだろうがビニールでラップされ、腹部CTスキャン画像の手元再生用に使われている。患部と画像の間の視点移動が少ないし、関係者全員の視線を集中できるところがメリットのようだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

始まった日本のHealth2.0ムーブメント

health2.0

昨日、メドピア株式会社の石見社長と比木取締役がお見えになり、来る6月4日に開催されるHealth2.0 Tokyo Chapterのお話を伺った。これで日本においても、ようやくHealth2.0ムーブメントが公然と姿を現すことになるわけだ。

昨日もお話したのだが、思い返せば2006年秋から翌年春にかけて、サンフランシスコ周辺でBarCampやHealthCampなど数多くの医療とウェブをテーマにしたアンカンファレンスが開催されていた。当時、私は東京からそれらの動向を関連ブログや共有サイトなどで毎日チェックしていたのだが、それは前年2005年に爆発したweb2.0ムーブメントが、必ず医療にも波及するはずだとの確信めいた思いがあってのことであった。

活発な議論が交わされる中で、それら無秩序な動きは自然発生的にいくつかのグループを形成し始め、やがて「Health2.0」というシンボルワードのもとへと流れ込み、大きなムーブメントが生み出されていくのを興奮しながら見ていたのである。当時の様々な論争については、このブログの初期エントリに記してあるので、興味のある方はお読みいただきたい。

結局、2007年春にマシュー・ホルトが「この秋、第一回Health2.0カンファランスをサンフランシスコで開催する」と発表し、以後、今日に至る流れができたわけだ。あれから三年が経ち、いよいよ日本でもHealth2.0ムーブメントが始まる。そう思うと、非常に感慨深いものがある。この「TOBYO開発ブログ」は、TOBYOプロジェクト開発の理論構築をめざして設けられたのだが、偶然にも米国におけるHealth2.0ムーブメントの胎動期に逢着し、その誕生と発展をリアルタイムに記録紹介することになったのである。 続きを読む

徹底討論『光の道は必要か?』

HiKari_Road_Session

昨夜の「孫正義vs佐々木俊尚 徹底討論『光の道は必要か?』」は面白かった。夕食後、8時過ぎからUstreamで見始め、結局12時までお付き合いしたのだが、トークセッションが終わったのは深夜1時だったらしい。なんと延々5時間。このセッションの概要は「光の道 テキスト中継ログ #hikari_roadhttp:」ですべてテキスト化されている。

全体を通してみれば、両者の議論は咬み合うように見えながら微妙にすれ違っていた。どこですれ違っているかといえば、インターネットの現状と将来をめぐる孫氏のハード・インフラ至上論と佐々木氏のプラットフォーム優位論においてである。たしかに全国津々浦々に国費ゼロで「光の道」を整備できれば、それはそれですばらしいだろう。だがそのことによって、自動的に日本のインターネットが飛躍的に活性化されるかといえば、そうではないだろう。今日、われわれが実感しつつある日本のインターネットをめぐるある種の閉塞感と言うものを考えると、それはインフラが光かメタルかという問題とはまったく次元が違うと思う。

「インターネットを使わない」理由だが、これを見るとネットの普及が進まないのは料金の問題よりも他の要因の方が相対的に大きいことがわかる。つまりは固定回線のネットを利用することにさほど魅力が感じられていないのだ。もちろん都市部のデジタルネイティブな国民の間では、ブログやTwitterなどのソーシャルメディアやさまざまなリッチコンテンツを楽しむ文化ができあがってきているが、しかしたとえば地方の高齢者などにはそういう文化は比較的伝わりにくい。本来そうした層に送り込むべきインターネットのサービスは、たとえば健康管理やセキュリティといった、もっと生活に密着したサービスだ。
「ソフトバンクの「光の道」論に全面反論する(下)」  佐々木俊尚)

最近、「日本の医療ウェブの成熟度」ということを考える機会が多いのだが、たしかに日本の医療インターネット分野において、生活に密着した便利な医療サービスの数は驚くほど少ない。欧米に比べると、日本のインターネット医療サービスの貧困という現状は否定できない。そしてこのことは「光の道」の達成、つまりインフラ整備の問題とはほとんど無関係である。 続きを読む

病院検索サービスの再検討: 医療機関バーティカル検索エンジンのすすめ

V_SearchEngine

昨日、実はある大学病院の脳神経外科で検査を受けていた。MRIに30分も閉じ込められ、「ドカン、ドカン、ギーッ!」という物凄い機械音に驚かされた。これまでMRIの体験記録などたくさん目にしてきたはずだが、いや、こうまですごい騒音とは・・・・・。閉所恐怖症の人にはとても耐えられないだろう。何事も実際に体験してみないことにはわからないものだ。

幸い、検査の結果は「異常なし」でホッとしたのだが、今回、医療機関サイトをあちこち眺め回したり調べたりして、いくつか気づくところがあった。そのうちの最たるものは、「必要な医療機関情報へダイレクトに辿り着けない」ということである。GoogleやYahooの検索エンジンではゴミやノイズが多すぎる。そこで医療機関検索サービスを利用することになるが、それらサービスの大半は、まず「部位、診療科目、地域」など大分類から選択を始めさせ、何段階か選択を進めた結果、やっと目指す情報にたどり着くような仕組みになっている。

これはユーザー側で予め検索対象情報が明確になっている場合、非常に迂遠な方法であり、ユーザーに時間と手間を強いるものである。つまり探索経路が硬直的であり、しかも最短ではないのだ。特に一刻を争うような場合には、使い物にならないだろう。 続きを読む