三宅 啓 の紹介

株式会社イニシアティブ 代表 ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にすることをめざしています。

オンライン診療への挑戦: American Well

AmericanWell

「インターネットによる医療サービス」と言えば、今日では医療情報サービスのことを誰しも思い浮かべる。だが、今日ではあたかも忘却されてしまったかのようだが、実はインターネット黎明期から、多くの人々によって繰り返し提起されてきたサービスがある。それは「オンライン診療の実現」である。そして、このことは何度も提起されながらも、結局、事業としては今日まで実現されていないのだ。

誰もがその実現を口にしながらも、現実には影も形もないというのは一体どういうことなのだろうか?。いろいろな要因があるとして、手短に言えば、経済的な事業スキームを誰も作ることができなかったということに尽きるだろう。実際、これに類する問題は多い。とりわけ10年前に「eヘルス」などと言われていた時期には、医療を実際に支える経済的・市場的ファクターを度外視した「バラ色未来論」が横行していた。もちろんそこでも在宅医療などオンライン診療が語られてはいたが、経済ファクターやマーケティングまで含めた視点は皆無であった。つまり技術的なブレークスルーよりも、本当は事業開発における新しいスキームづくりが必要だったのだ。 続きを読む

DOSSIAコンソーシアムの動向

DOSSIA

ウォルマート、インテル、AT&Tなど巨大企業が参加するPHRコンソーシアムであるDOSSIAだが、先週、CTO(最高技術責任者)であるデイブ・ハモンド氏は、DOSSIAが今年中に稼働することを発表した。一昨年末の電撃的な発表と、その巨大企業からなる参加メンバーによって、DOSSIAはPHRの先端を行くプロジェクトとみなされてはいたのだが、開発を担当するベンチャー企業との紛争により当初計画は大幅に遅滞してしまった。

その後、開発主力部隊を全面的に変更し、ハーバード・メディカル・スクール系グループが開発していたオープンソースPHRである「Indivo」の採用に踏み切り、なんとか立て直しを図ってきた。だがマイクロソフトのHealthVaultやGoogleHealthなど、後発プロジェクトの後塵を拝する立場に立たされていることは否定できない。この三つのプロジェクトに共通するのは、三つとも非医療系プレイヤーが主体になっているところだろう。それゆえ医療機関の巻き込みと、数的優位をめぐる競争は熾烈を極めるものになる 続きを読む

フィットネス携帯サービス:miCoach

MiCoach

アディダスとサムソンが共同開発した「miCoach」がおもしろい。

GPS携帯+心拍数モニター+歩幅センサー+フィットネス・プログラム

上記のコンビネーションで一体化されたサービスが「miCoach」であるが、ジョギング時の走行スピード、距離、消費カロリーなどをリアルタイムに測定表示し、まるで並走コーチのように、ユーザーの走行状況に応じた音声アドバイスをしてくれる。もちろん音楽を聴きながら走ることも可能。個人走行データはウェブサイトに記録され、フィットネス改善状況を把握できる。 続きを読む

Health2.0からDoctor2.0、そして或る事実誤認


昨年エントリでも取り上げたが、ニューヨークはブルックリンでユニークな医療活動を展開するジェイ・パーキンソン医師。ウェブサイト以外の診療拠点を持たず、ネットワーク技術を活用して往診だけの医療サービスを開業し、先頃のHealth2.0コンファレンスでも話題になっていた。そのパーキンソン医師のインタービューがYouTubeにアップされた。ところで最近、ジェイ・パーキンソン医師はカナダの医療ベンチャー企業「Myca」に招聘され、同社チーフ・メディカル・オフィサーに就任したようだ。このMyca社は現在、「Hello Health」というユニークな診療所向け情報システムを開発中である。その一端が、このインタービュー・ビデオでも紹介されている。PHRにせよEHRにせよ、インターフェイスのプロトタイプはすべて、従来の「紙の帳票」であった。紙のカルテや健康記録表などのフォームが、そのまま電子化されたようなものであった。それに対し、「Hello Health」は従来と全く違うユーザー・インターフェイスを持っている。ビデオではほんの一瞬、垣間見れるだけだが、それでも従来のPHRやEHRとはまるで違うインターフェイスであることがわかる。

ジェイ・パーキンソン医師の例を見ていると、ムーブメントとしてのHealth2.0が医師の医療提供のありかたまで変えつつあり、今後、医療における広範な変革を生み出す可能性を持っていることが理解される。そのようなHealth2.0であるのだが、ところで今日、ある人から教えられて次のような「プレスリリース」を目にした。

【インターネットにおける健康コンテンツのトレンドについて】
2006年5月に、米GoogleはGoogleHealthを発表、2008年2月からテストサービスを開始し、米Microsoft社も2007年 10月より、ヘルスケアサービスのテスト版を開始しています。また、米国ではHealth2.0という、米製薬会社が指揮を取り、多くのIT企業が参画した、製薬会社を含めた医療と患者の新しい関係を模索する(健康とWeb2.0を掛け合わせ、新しいコミュニケーションの方法を探る)カンファレンスが 2007年10月から開始され、年二回の予定で実施されています。(第二回が2008年3月に盛況の内終了)
(医療と患者の関係を変える!新しい患者コミュニティサイト、LifePalette(ライフパレット)オープン!)

この世界には、たしかにどのような「妄想」を持つ自由もあるだろう。また「妄想」は、想像力と淵源を共有する創造性の一つのヴァリアントと考えてもよい。しかし、「妄想」と「事実」を混同してならないのは社会常識の一つだ。上記に「米国ではHealth2.0という、米製薬会社が指揮を取り・・・・・」とあるが、そのような事実はない。こんな事実無根の作文が知れたら、Health2.0ムーブメントの中心的な人々、マシュー・ホルト、インドゥー・スバイヤ、スコット・シュリーブなどから抗議される可能性さえある。また「2006年5月に、米GoogleはGoogleHealthを発表」とあるが、そのような事実もない。2006年5月に発表されたのはGoogleCo-opだ。

先日、「LifePalette」には当方からエールを送っておいた。だが、残念ながら今回の「プレスリリース」には失望させられるばかりか、米国の人たちに失礼だろう。会社のオフィシャル文書の内容は、しっかりと事実確認したほうが良いだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

「日本版PHR」の行方

WhatsGoinOn

昨年立ち上げられた経産省、厚労省、総務省、内閣官房による「日本版PHRを活用した健康サービス研究会」だが、先月にはひととおりの議論を終え、研究報告書を発表したようだ。ざっとこれまでの議論について配布資料等に目を通したのだが、何か議論の拡散ぶりばかりが目につき、いまいち密度の高い「収束力」の存在を感じ取ることができなかった。

各人各様のPHR論があってもそれは構わないのだが、こうまで研究会メンバーが多人数すぎると、もとより議論の収束点は消失するほかないのだろう。「総花的な、とっ散らかったPHR談義」という印象をぬぐえない。 続きを読む