セルフ検査キオスクとDOOH市場

チェーン薬局店頭などに置かれるセルフサービスの無料検査キオスク“Solo-Health Station”がこのたびFDAの承認を獲得し、これから本格的に全国展開に乗り出す。

このSolo-Health Stationは、視力、血圧、体重、BMIの測定を消費者が自分で行い、測定結果レポートをその場で受け取れるサービス。また測定結果レポートには近隣の医師リストもあり、その場で希望する医師を選んでオンライン予約を入れることもできる。

いわば自己診断ツールと医療機関予約を一体化したような拠点型サービスだが、ある意味でこれは、疾患発症前の消費者の医療機関訪問を促す「入り口」のような予防機能を果たすものと想定される。そのため国民医療費削減に寄与するとの期待もあり、FDAが承認したのも宜なるかなである。

だがそのような「期待される事態」は実際に起きるのだろうか?つまりこのキオスクを消費者は喜んで利用するのだろうか?そのあたりはなんともわからない。薬局店頭の衆人環視の中で「検査」をするには、いささか勇気がいるような気もする。カーテン等で遮蔽する手もあるが、そうなると店頭での存在感が薄まる恐れもある。よくある「理屈はわかるが、実際にはワークしないのでは・・・・・」というサービスになる可能性が強いのではないか。

ところでこの”Solo-Health Station”にはセルフ検査キオスクという顔とは別に、もう一つの顔がある。それはDOOH(Digital Out of Home)広告媒体という顔である。要するにこれを介して、製薬メーカーや医療機関の広告を薬局店頭で流そうというわけである。実は米国では最近、DOOH市場そして特に医療DOOHが成長分野であるとの声が高まってきており、この”Solo-Health Station”もセルフ検査キオスクとしてよりも、むしろ新しいDOOH広告チャネルとして見られることが多いようだ。

米国の医療DOOH市場は、これまで医療機関向け市場で急成長を遂げてきている。病院の待合室やコモンスペースでのディスプレイ設置による映像コンテンツ配信サービスが大きく伸びており、この3月には病院専門配信サービスHTV(Hospital TV Network)がローンチされている。そしてSolo-Health Stationによって、医療DOOHの新たなステージとして薬局店頭が注目されているわけだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

HealthTapの快進撃

HealthTap

今年はじめには、あちこちで悪評がささやかれていたHealthTap。そのHealthTapが1100万ドルの資金調達に成功し、サイトとサービスのリニューアルに取り組んでいる。当初、HealthTapはQuoraの医療版のようなQ&Aサービスを目指していたとのことだが、今回のリニューアルでは路線変更の兆しがうかがえる。どうやらHealthTapは単なる「患者-医師、Q&Aサービス」から、「患者-医師、バーチャル診察サービス」の提供へと転進しつつあるようだ。そしてその際、彼らが重視しているのはモバイルデバイスだが、決済手段としてPayPalの小額決済サービスであるマイクロペイメントを使うことが話題になっている。ウェブ医療サービスの新たなマネタイズ手段として、今後、マイクロペイメントが注目されるかもしれない。

しかし、この「患者-医師、バーチャル診察サービス」というのは、実はこれまで多数のスタートアップが挑戦しながらも、ほとんどすべてが失敗している分野である。最近ではDr2.0ことジェイ・パーキンソンがプロジェクトに参加していた”Hello Health”の挫折が記憶に新しい。現在”Hello Health”は、クラウドベースのEHRに方向転換している。「患者-医師、バーチャル診察サービス」は、いわゆる”Tele-Medicine”(遠隔医療)という医療ITではむしろ古典的なジャンルにふくまれる。昔から誰もが思いつきながらも、いまだにビジネスの不毛地帯である。これはなぜだろうか?このあたりに、ウェブ医療サービス成立条件の特殊性を探るヒントがありそうだ。

ところでHealthTapへの出資者だが、エスター・ダイソンやGoogleのエリック・シュミットをはじめ錚々たる顔ぶれである。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

The Missing Voice of Patients

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昨日のセミナーでも話したが、副作用症状報告について、医師が「患者の声」を過小評価しがちであるとの調査結果がNEJMで二年前に発表されている。“The Missing Voice of Patients in Drug-Safety Reporting”  この調査はニューヨークのスローン・ケタリング記念がんセンターで、ほぼ二年間にわたるがん患者467人の4034回の診察を対象におこなわれた。それぞれの診察で確認された副作用症状について、患者が直接作成した報告書と医師・看護師側が「患者の声」に基づいて作成した報告書の傾向を比較しようというものだ。(Ethan Basch, M.D.N Engl J Med 2010; 362:865-869March 11, 2010)

上のグラフはその調査結果の一部で、副作用症状のうち「疲労」「食欲減退」の累積罹患率を示している。赤線は患者報告、青線は医師・看護師報告に基づいているが、いずれも患者報告の方が医師・看護師報告よりも累積罹患率はかなり高く、しかもその立ち上がり方は急峻であることがわかる。「食欲減退」では医師・看護師側報告ではほとんど罹患が認められないのに対し、患者報告では最終的に40%近い患者が「食欲減退」症状を報告しており、「患者の声」は医師・看護師からほぼ無視されたようなかたちになっている。しかし、患者自身が訴える「食欲減退」感を否定するというのは、一体どう解釈すればよいのであろうか?

かつてある医療セミナーで、講師が「患者のいうことは信用できない」と発言するのを聞いたことがあった。後日、あらためてこの発言を思い出し「とんでもない発言だ」と腹が立ったが、その時、その場で反論せずに黙っていた自分の卑小さを責めるほかなく、たいへん悔しい思いをした。また、闘病ブログを読んでいると、よく遭遇する次のようなシーンがある。患者が医師に対して患部の痛みを訴えたが、医師は「そんなことは、あるはずがない」と患者の痛みを否定し、患者はあたかも自分が嘘をついているかのように医師から非難されたと感じ、患部の痛みに何の処置も施されずに診察室を去る。そんなシーンである。まさかと思われる向きもあろうが、実際、このようなシーンを綴った闘病ブログは少なくないのだ。 続きを読む

急拡大する米国の医療ITベンチャー投資

@Rock_Health 2012 Midyear Funding Report

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昨年来、米国の医療分野ITベンチャーに対する投資意欲は熱く高まり、投資額はますます急拡大している。医療ITスタートアップのインキュベータとして大活躍しているRockHealthが、このほど2012年中間投資レポートを発表した。

それによれば医療ITベンチャー企業へのVC投資総額は、2009年から2年間で倍増しており、2011年は12億1900万ドルに達している。さらに今年2012年上半期は、2011年に比べ73%増と大幅な増加をみせている。この2012年上半期において、少なくとも68社の医療ITベンチャー企業が、それぞれ200万ドル以上の資金を調達したと報告されている。

68社のビジネスモデル別の内訳を見ると、B2Bが40社で4億200万ドル、B2Cが23社で2億5000万ドル、B2MDが5社で1700万ドルとなっている。B2Bが主要なビジネスモデルだが、徐々にB2Cモデルが伸びてきているようだ。獲得資金総額のランキングも掲載されているが、このレポートでは医療ITベンチャーを「医師ツール、医療センサー、ホームヘルス、データ分析」の四つのカテゴリーに分類している。

また、2012年上半期に医療IT分野への投資実績のあるベンチャーキャピタルだが、これは92社にのぼっている。 続きを読む

医療ウェブサービスの新しい挑戦: U2plus

U2plus

先日、日本の医療ウェブサービスの現状をあらためて調べる機会があった。その結果得た当方の印象を率直に言えば、ここ10年ほどの間に、日本の医療ウェブサービスはむしろ縮小してしまったということにつきる。その原因は、この間、ISPポータルサイトが総じてコンテンツ掲載を縮小してきており、真っ先にその縮小あるいは撤退の対象になったのが健康・医療分野であったことが大きい。かろうじてYahoo!Japanなどでは、まだ健康・医療コーナー「Yahoo!ヘルスケア」が存続されているが、Yahoo!トップページから直接「Yahoo!ヘルスケア」に行く動線はない。

それに対し、新たに登場した独立系の医療ウェブサービス・サイトの数は非常に少ない。新規サービスが少なく従来サイトが縮小閉鎖されているのだから、全体として日本の医療ウェブサービスがシュリンクして行くのは当然と言える。ISPポータルのように、ウェブ全体が2.0へ進む過程で淘汰されるのはある意味で仕方ないことだが、他方、日本の医療分野で新しいサービスの登場が非常に少ないという事態は、もっと深刻に受け止められる必要があるように思う。

そのような状況で、唯一、健闘しているのが「うつ症状の予防、回復、再発防止をサポートするU2plus」だろう。いろいろな人から「医療関連で何か面白いサイトはありませんか?」と訊かれることも多いが、いつからか、そんな時は迷わずU2plusをあげるようになった。

患者や医療者の人的交流や情報シェアを、コミュニティ・ベースで提供するようなサービスはこれまでもあった。だが、U2plusは「予防、回復、再発防止」を目的とし、それを実現する認知行動療法をウェブベースで提供するサービスである。つまり医療に関わる間接的な情報シェアの機会を提供するサービスではなく、直接、疾患ケアそのものをウェブで提供するサービスになっている。そこが、従来の凡百の「医療系SNS、コミュニティ」などと決定的に違うところであり、従来にない全く新しい医療ウェブサービスとして評価できる。 続きを読む