続々開催される医療ITカンファレンス

Announcing Medicine X 2012 from Larry Chu on Vimeo.

前エントリでも少し触れたように、ここのところ徐々に「Health2.0」という言葉は、単に特定のイベント興行ブランド・ネームへと格下げされたかのような感が強い。なぜ「格下げ」が起きたかというと、Health2.0以外に多数の医療ITカンファレンスが続々と実施され、さまざまなムーブメントも立ち上がってきているからだ。その中でも、若者中心のスタートアップ企業が大挙結集して注目を集めたのがRock Health主催の“Health Innovation Sumit” で、今年1月サンフランシスコで開催されている。

また、最近注目されているのがこの9月開催される“Stanford Medicine X”。プロモーションビデオ(上)が公開されているが、自分のICD(植え込み型除細動器)データへのアクセスを主張して話題になったe-PatientのHugo Campos氏も参加する予定。

ちなみに、夏までに開催が予定されている主な医療ITカンファレンスは下記の通り。

Healthcare Experience Design Conference

TEDMED

Sage Commons Congress

Innovations & Investments in Healthcare

Mobile Health 2012

Digital Health Summer Summit

Kauffman Life Science Ventures Summit

三宅 啓 INITIATIVE INC.

仮想対談: 「2.0」への苦言

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客) やっと暖かくなってきたが。

主) そうなんだ、やっと新宿御苑プロムナードの梅の花も咲き始めた。ところで、このエントリだが、なにか今までとスタイルがちがうな。「仮想対談」というのかな、こんな形式もはじめての試みだが。

客) 前から一度やってみたかったんだが、今日、吉本隆明死去のニュースを聞いて、早速やってみた次第だ。

主) 吉本さんの「情況への発言」だな。あれは面白かったな。毎回、進歩派知識人を「このバカ、死ね!」とメッタ斬りするところが痛快だった。仮想対談という形式でしか実現できない言説空間というものが、たしかにあるんだなと思ったね。

客) そう、あの「情況への発言」にあやかろうというわけだ。ところでまず、君はここのところ、医師コミュニティについてかなり批判的な発言をしているが、その真意は一体どこにあるのか。そのあたりから話してみよう。

主) 別にとりたてて「真意」というものもない。ただ、Sermoの現状などを見ていると「本当は、ちっとも成功などしていないのではないか?」という疑念が強まってきたわけだ。その一方で、QuantiaMDが会員数15万人に達し、Sermoを抜いて全米ナンバーワン医師コミュニティになったというニュースもあり、じゃ、SermoとQuantiaMDを比較すれば、医師コミュニティが本質的に抱える問題点というものが見えてくるだろうと考えたわけだ。

客) でも、それは君のTOBYOプロジェクトとは何の関係もないだろう。

主) いや、「Health2.0のビジネスモデル」というものを考える場合、医師コミュニティの成立与件の考察も役に立つんだ。以前、「患者コミュニティの考察」というエントリを出したが、これと今回の「医師コミュニティの考察」を合わせることで、Health2.0ビジネスモデル、特にコミュニティに共通する問題点がいくつか明らかになったと思うし、それはこちらのプロジェクトにもすごく役立った。 続きを読む

ウェブ医療サービス時評 2012.3: パターナリズムを越えて

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3月になっても新宿御苑遊歩道の梅はまだ開花せず。しかし、昨日あたりからぐっと暖かくなってきた。もうすぐ春だ。写真は夜明けの石神井公園。

先週、厚生労働省の「医療情報の提供のあり方等に関する検討会」(座長=長谷川敏彦・日本医科大教授)が、医療機関や地方自治体がインターネットで提供する医療情報に関する報告書「医療情報の提供のあり方等に関する検討会報告書」を発表した。このニュースを聞いて正直「えっ!まだやっていたの?」と言う他なかった。名称は多少違うかもしれないが、厚労省の同様の「検討会」はおよそ10年前から断続的に続けられていたような記憶があるからだ。10年前には知人が検討会メンバーに入っていたこともあり、医療機関サイトが「広告ではなく広報」として扱われたこと、アウトカム情報公開がうやむやに先送りされたことなどが印象に残っている。

その後、小泉内閣の総合規制改革会議(宮内義彦議長)において、「株式会社の病院経営参入」や「混合診療」そして「広告規制緩和」などかなり思い切った試案が出されたが、それらはその後すべて次々に葬り去られたのである。そして今回の「検討会報告書」には、たとえば「ポジティブリストによる広告規制の継続」や「アウトカム情報公開の実質的なもみ消し」などがあるが、これでこの十年間様々に提起された「改革の芽」は最終的に潰えたと言えるだろう。否、10年経って、規制はむしろ強化されたのではないか。 続きを読む

製薬会社の医療アプリ専門紹介サイト: POCKET.MD

POCKET.MD

海外では、製薬会社や医療機器会社からスマートフォンやiPad向けの医療アプリが多数リリースされているが、とうとう専門紹介サイト「POCKET.MD」まで出現した。世界の主要製薬会社のブランデッド・アプリがほぼ網羅されており、またブランドごとにアプリが分類されているので便利なサイトだ。

ここで紹介されている日本語アプリはエーザイのipad向け「骨ケア」だけだが、そう言えば国内製薬会社のアプリというのはあまり聞いたことがない。しかし、たかがアプリとバカにはできない。消費者向けの医療アプリは疾患啓発サイトに代わるDTCメディアになる可能性があるし、医師向けアプリは医師囲い込みやディテーリングのツールに利用される可能性もある。要するにマーケティングのダイレクト・チャネルとして有望なのだが、日本ではあまり積極的に利用しようという機運は起きていないようだ。規制の問題がはっきりしないこともあるのか。

一方、増加する製薬会社の医療アプリをにらみ、米国FDAは昨夏、規制ガイドライン・ドラフト“Draft Guidance for Industry and Food and Drug Administration Staff – Mobile Medical Applications”を発表している。

オンライン医療サービスはこれからますますモバイルへ傾斜していくだろうが、その際アプリの戦略的位置づけというものを考えておくべきだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

事業領域の再考をめぐって

shinjuku_gyoen_lunch前回エントリで触れたが、現在、dimensionsで開発した技術をB2Cモデルへ転用した「乳がん闘病クチコミCHART」(仮)の実用化に取り組んでいる。できれば4月から運用を始めたい。考えて見れば、dimensionsは企画立案からシステム運用までほぼ2年かかったわけだが、ここで開発した技術は単にdimensionsというシステムにとどまるものではなく、さまざまな応用領域へ展開できるものである。

当初はあまりそんなことを考える余裕もなく、ひたすらdimensions(旧名dfc)の設計概要を固め機能を実装することで手一杯だった。それでも予定を大幅に超える時間を要したのは、このような未踏プロジェクトを進める以上、ある意味やむを得ないことだと思っていた。そして出来上がってみると、dimensionsという「ソーシャル・リスニング・ツール」が完成したというよりは、それ以上の大きな価値が実現できたのだとの感を次第に強く持つに至っている。

私たちが、dimensions開発の過程で取り組んだ技術は要約してしまうと以下の三点である。

  1. データ取得(クロール、本文抽出、日付取得、DB化)
  2. リスティング(キイワード抽出、集計、カテゴリーリスト化)
  3. バーティカル検索エンジン(新規エンジン採用、疾患ごとのバーティカル検索、メタデータによるフィルタリング)

いずれもきわめて基本的なものであるが、データ精度や処理速度を実用レベルに持ってくるのに随分苦労した。だがこれらの技術によって、私たちは闘病ユニバース上にある膨大な闘病ドキュメントをデータとして自由自在にハンドリングできるようになった。ここが非常に重要なポイントだ。dimensions自体も、これらの技術の組み合わせのうちの「一つのフォーム」ということにすぎない。つまり、これらの技術の組み合わせ方によって、闘病ユニバースからさまざまなアウトプットを取り出すことが可能になったのである。 続きを読む