NHK「物理学者 がんを見つめる 戸塚洋二 最期の挑戦」を見る

昨夜、NHK総合で次期ノーベル賞最有力候補と目されながら、昨夏がんで亡くなった戸塚洋二さんのドキュメンタリを見た。既にブログや本によって、晩年の戸塚さんの闘病についてはおよそのことは知っていたとはいえ、このドキュメンタリを見て、新たに発見したことも多かった。非常に良くできたドキュメンタリだと思う。

穏やかな日常時間、とでも言えば良いのだろうか。戸塚さんのブログエントリに書かれた事々が、それら時間の中に淡々と配列され、流れだし、そして同時に宇宙論、実験プロジェクト、仏教、庭の草花、闘病などが渾然と分かちがたく提示されている。押し付けがましいストーリーでも大仰なテーマでもなく、ただ穏やかな時間の中に宇宙から草花までが存在するような、そんな戸塚洋二さんの人生の提示のされ方に、好感を持ったのである。 続きを読む

闘病体験を「物語性」の封印から解放せよ

昨日エントリで、闘病ドキュメントに対する当方の見方の変化について書いたわけだが、結局のところ闘病ドキュメント自体に関与していかなければ、TOBYOが「体験事実とデータ価値」に向けてその利用方法を進化させていくことはないと思う。現在の闘病ドキュメントはネット上に分散して存在している。当然、分散した情報を分散したまま利用するのがネット的なありかたなのだが、そうはいっても検査データの記録方法などは統一しておかないと、多くの闘病者の体験事例を数値データで集約し統計分析することはできない。つまり本当の意味での「データベース」としての使い方ができないわけだ。

現状は、たくさんの闘病者がネットで情報を公開していながら、それらサイトに蓄積されたデータを集計したり相互比較したりすることもできない。せっかく有用なデータがあるのに、それらを効率的に利用する方法が開発されていないのである。物理学者の戸塚洋二さんなども、実はその点を指摘していたわけだが、これを解決するためにはPHRと合体したような闘病サイトサービスを開発し、そこでデータを記録しながら闘病ドキュメントを書いてもらうしかないと思う。このような闘病サイトサービスにはさまざまなアプローチ方法があるだろうが、PatientsLikeMeなどはSNSというアプローチを選択しているわけである。 続きを読む

Health2.0企業の針路

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昨日エントリで取り上げたが、同じ目標を持ち活動していた仲間が減るのはやはり寂しい。だが、それでもとにかく前進しなければならないのだ。闘病者の自発的活動によって形成された闘病ユニバースに基づいて、新しい医療サービスを生み出し持続させるために、さまざまなプレイヤーが参画できるようなビジネススキームを創り出していかなければならない。

TOBYO自体もこれら多様なプレイヤーの活動プラットフォームとして機能すべく、柔軟に対応できなければならない。TOBYOは、まず闘病ユニバースの情報共有インフラであることを目指しているが、そのことにとどまらず、さらに広く社会的な闘病体験共有インフラとしても機能することを目指していきたい。闘病ユニバースで生成された闘病体験情報は、闘病者同士で活用されるだけでなく、医療界、産業界、医療行政などにおいても価値を持つ情報である。つまり闘病体験情報を闘病ユニバース内部だけではなく、社会的に還流させることによって、闘病者が体験した具体事実が、製品開発、サービス開発、医療業務改善、医療教育、研究などに活かされる道をつくるのだ。このような闘病体験の「情報流」を創り出すことが、Health2.0企業にとってのマネタイズの前提である。 続きを読む

医療コミュニケーションの視点

先日エントリで日本の医療機関ウェブサイトの現状について、かなり悲観的な見方を書いた。ちょうどハーバードメディカルスクールのCIO(Chief Information Officer)を務めるJohn Halamka氏が、BIDMC(Beth Israel Deaconess Medical Center)のウェブサイトの全面リニューアルについてのエントリをTHCBにポストしたので、改めてこの問題を考えてみた。

BIDMCサイトはMS「SQL Server 2008」上に構築されているのだが、サイト上の様々な機能を、各種アプリケーションプロバイダーから調達し組み合わせて最適化して出来上がったものである。サイト上の各機能とそのプロバイダーは次のようになっている。 続きを読む

ある闘病者の言葉

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あなたが無駄に過ごした今日は
昨日死んでいった誰かが生きたいと願った 明日です

「あたしの生き方」 yukari5907 高次脳機能障害

闘病サイトのドキュメントを読んでいると、しばしば「ドキッ」とする言葉に出会う。このサイト「あたしの生き方」作者の言葉も、最近、記憶に残った言葉の中の一つである。なるほど、われわれは「死者」の視点から見た「未来」に生きているのだ。このような「死者の視点」に気づかせてくれた貴重な言葉である。

三宅 啓  INITIATIVE INC.