高まる医療ゲーミフィケーションへの期待

先のエントリで製薬会社ベーリンガー・インゲルハイムの話題のゲーム「Syrum」を取り上げたが、最近、ゲーミフィケーションを医療のアプリやサービスの開発に導入する動きが活発化している。Syrumの場合、どちらかと言えば新薬開発のためのマーケティングを目的としていると考えられるが、もとよりゲームは、消費者あるいは患者が楽しく遊びながら自らのエンゲージメントやモチベーションを高め、生活習慣を自然に変えることができる優れた方法である。

たとえば運動習慣を生活に取り入れようとジョギングを始める人は多い。でもなかなか日々の習慣にするまでには至らず、挫折する人も多いのではないだろうか。こんな人には“Zombies Run !”だ。”Zombies Run !”は、ただ走るのではなく「ゾンビ集団から逃げる」という緊迫した状況設定を日々のジョギングに付与し、さらに「街づくり」など達成感のあるゲームストーリーにプレイヤーを巻き込んでいくスマホ・アプリだ。いわばリアルのランニングとヴァーチャルのゲームを一体化して、プレイヤーのランニング・モチベーションを高めるエンターテインメントに仕上がっている。これと似たようなゲーム性のあるジョギング・アプリとしては“Superbetter”も人気がある。 続きを読む

The Voice Of The Patients “Treato”


今のところ私たちのTOBYOプロジェクトの唯一のライバルであり、私たちとほぼ同じ方向感覚で、患者の声に基づく新しいサービスを開発してきたイスラエルのFirstLifeResearch社のことは、すでにこれまで何度かこのブログでも取り上げてきた。その後、社名変更したらしく、患者の声による医薬品評価サイト“Treato” をそのまま社名に使用している。

そのTreato社がここへ来てにわかに脚光を浴び始めている。まず8月にWorldOne社とのパートナーシップ契約 を発表した。WorldOneとは、Sermoを買収したあのグローバル医療リサーチ会社の”WorldOne”である。WorldOneは昨年から医薬品業界向けのリサーチ・プラットフォーム“MedLive” を起ち上げているが、これにTreatoが保有する患者体験と患者知覚に関するデータを統合することをめざしている。つまり医薬品に対する医療者の評価に患者の評価を合わせ、総合的な医薬品評価データを提供しようというわけだ。

そして今月、Treatoはプロフェッショナル向けの患者リスニング・サービス“Treato Pharma”をローンチしている。まだ詳しい中身はわからないが、サイトのデモを見る限りなかなか興味深いサービスだ。というか、これらは私たちがTOBYOプロジェクトでめざしていることとほとんど同じだ。私たちのTOBYOプロジェクトは、TOBYOを起点として、プロフェッショナル向けのdimensions、コンシューマー向けのCHART、V-SEARCHおよびそれらのAPIという順序で「患者の声」をさまざまな人の手に届けようとしてきたのだが、Treatoは消費者向けサービスから出発して、今回プロフェッショナル向けサービスを起ち上げ、さらにおそらくAPIを介してWorldOneなど他サイトへのデータ供与も開始しようとしている。 続きを読む

ゲームで新薬開発!BIの”Syrum”発進。

先月、製薬会社のBI(ベーリンガー・インゲルハイム)がFacebook上で動くソーシャルゲーム“Syrum”を公開し、欧米では大変な話題となっている。現在”Syrum”はヨーロッパのFacebookユーザーだけに公開されているようだが、わざわざアメリカからヨーロッパへ”Syrum”をプレーしに行った人もいるようだ。

製薬会社のゲームはこれまでにもたくさんリリースされていたが、”Syrum”が話題になっているのはその題材ゆえである。

同社によれば『Syrum』は製薬会社による初の「薬作りゲーム」とのこと。ユーザーは製薬会社に所属する研究者となり、次々と発生する様々な世界的伝染病と戦うため研究を行い新薬を開発して患者に配り、自分の製薬会社を成長させていく。また薬を開発しやすくするため、Facebook上の友達と合成物を交換し合うソーシャル要素もあるという。
「ドイツの製薬会社、フェイスブックにて新薬開発のソーシャルゲーム『Syrum』をリリース」,GameBusiness.JP)

このゲームを開発した意図として、BIの担当者は「製薬会社が、新薬開発でどれだけの時間、資金、知識を投入しているかを知ってほしい」と社会的な理解形成をめざす広報および教育をあげている。だが欧米の製薬マーケティング業界の一部では、このゲームが単なる広報・教育のために作られたものではなく、新手のゲーミフィケーションのリサーチツールではないかと指摘する向きもある。 続きを読む

反復と新展開


先週から家人が近所の順天堂大学練馬病院に入院しているが、手術は無事終了し、回復も順調でほっとしている。今回、医療サービスの現状を実際に一人の患者家族として体験してみて、あらためてたくさんの気づきや学びを得ることができた。問題は山ほどあるが、とりわけ気になったのは医療現場におけるコミュニケーションの問題である。

なかでも基本は患者家族と医療者のコミュニケーションだが、これをもっと効率的にスムーズに進めることはできないものかと、苛立にも似た思いにかられる場面も少なくなかった。何もそう難しいものではなく、たとえばウェブを上手に利用し情報共有を促進するだけで容易に解決されるものだろうと確信したが、現実問題として、実際に声を上げ手をつけようとする者が医療現場に居ないと感じた。

また医療チームのメンバー間のコミュニケーションだが、それが果たして十分なものかどうか疑問符がつく場面にも遭遇した。今回のケースでは、手術前の外科医と麻酔医の説明がまったく食い違うものであり、患者をはじめ家族全員が困惑せざるをえなかった。業を煮やし「あなたがた医師団のコミュニケーションはきちんと取れているのか?」と当方が詰問する場面もあったのである。患者と家族に不信感を与えるような手術説明会とは、いったい何なのか?

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インサイト・メーカーは誰か?

Still_Life

まだまだ残暑厳しい毎日。夏の疲れもでてくる時期。当方では、家人が来週から手術入院することになった。春先から調子を崩していたが、この夏、よもや想定していなかった診断を受け本人の希望どおり手術をうけることになった。

患者家族の立場から、あらためてウェブ上の医療情報のありがたみを痛感したが、一方では各種検索サービスや病院サイトなど、まだまだ利用者ニーズを十分に斟酌したサービスとは残念ながらいいがたいと感じた。ユーザーが欲しているのは、あることがらについての比較情報であるのに、探索経路・動線が直線的に設計されていて非常に使いにくい。たとえば、医療機関を横断的に比較一覧できるような仕組みが必要だと強く感じた。また病院サイトはもっとユーザーとコミュニケーションする仕組みを持つべきだろう。各病院のサイト構成はまさに十年一日で、なんの進化もない。

「利用者ニーズを十分に斟酌する」ということだが、従来のセオリーで行くと、これには有効なマーケティング・リサーチが必要だということになる。当方では昨年春頃から「リサーチ・イノベーション」というテーマに注目してきたわけだが。従来のレガシーなアンケート調査やインタビュー調査にかわり、新たにソーシャル・リスニングやMROCやコミュニティ・パネルなどが相次いで出てきて、にわかにマーケティング・リサーチ分野は従来にない活況を呈している。

当方開発の患者リスニング・プラットフォーム「dimensions」はこれらのリサーチ・イノベーションと同じ方向を向いていると考えているが、違うところをあえて挙げるとすれば、それは「リサーチャーの介在」を前提とはしていないという点だろう。端的に言うと、「調査レポート」みたいな成果物をオプション化し、サービスのコアはあくまで「インサイト・メーカー」(クライアント企業)自身が利用するツール提供に特化している点だ。 続きを読む