PHR市場でMicrosoftに後れを取るGoogle

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“CLEAR! Shocking Google Health Back to Life”,Scott Shreeve,MD)

米国PHR市場における主要プレイヤーは、一昨年の秋に登場したマイクロソフト社のHealth Vault、昨年春から起動したGoogle Health、そしてインテルやウォルマートなどのDOSSIAの三者だが、実質的にはHealth VaultとGoogle Healthの戦いになると見られていた。ところが最近、Health Vaultの競争優位が次第に明らかになってきている。同時に、特にGoogle Health開発のスローペースぶりに対して、Health2.0コミュニティから苛立ちにも似た批判が巻き起こってきている。批判は「Googleは本気で医療ITに取り組む決意を持っているのか?」から「Googleは出直せ!」に至るまで、主としてGoogle経営陣に向けられてきている。

Health2.0コミュニティきっての論客スコット・シュリーブ氏は、上記のような両者の比較対照表をブログで公開している。これを見ても、プロジェクトに従事する従業員数で実に100倍、提携組織数で10倍など、両者の間に徐々に圧倒的な差がつきつつあることがわかる。

このままHealth Vaultの独走を許せば、米国PHR市場は健全なコンペティター不在のままマイクロソフト社に独占される可能性があり、そのことは結果としてPHRの進化を遅らせ、市場の成長さえ阻害しかねない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

患者体験は医療を変える

昨日エントリで、HCAHPSやCHIなど患者体験調査について振り返ってみた。考えてみると、ピッカーメソッドを研究し日本版患者体験調査を構想してから現在のTOBYOプロジェクトに至るまで、ずっと私たちは「患者体験」ということにこだわってきたのだとあらためて認識した次第だ。

患者体験調査においては「体験された事実の頻度」を計測し、体験を数量化した上で分析することをめざしていたわけだ。それに対し今のTOBYOプロジェクトで私たちがやっていることは、体験ドキュメントを収集し、共有し、DB化した上で全文検索可能にすることである。このようにアプローチ手法はかなり違うが、「患者体験」に焦点を絞っている点では同じと言える。 続きを読む

医療情報配信のニューウェーブ

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去る6月末から、米国のトップブランド医療機関であるMayoClinic は、セリアック病 の患者に対してTwitterで最新の研究成果など情報配信を開始した。MayoClinicはこれまでもブログ、Facebook、YouTube専門チャネル などを使ってセリアック病に関するビデオやオーディオクリップを配信してきたが、セリアック病患者に対し、Twitterで一層きめ細かい情報提供活動をしていく予定。

MayoClinicでは、Twitter配信した情報に対するユーザー行動を見極め、その情報を再配信した患者ユーザーなど数名を選び出した上で、さらに詳しいセリアック病研究に関する専門情報(従来は専門家だけに配信していた情報)を配信するようだ。この専門情報については、一般公開と同時に、これら選出された患者ユーザーがブログなどで発表することを許可する。

まだ不明な点も残すが、今回のMayoClinicの新しいチャレンジは、従来の医療情報配信方法を根底的に変える可能性を孕んでいると思う。まず第一に、今回のMayoClinicのセリアック病情報配信が、ターゲティングを意識したものであることに注目したい。従来の医療情報配信は、不特定多数に対し一般的な医療情報を提供するものであり、特定の層に対する専門的な情報配信ではなかった。つまり従来の方法は多分にマスメディア的であり、ネットの特性を活かした情報配信ではないのである。それに対し、今回のMayoClinicのTwitterでの情報配信は、「セリアック病の患者」というターゲットを明確にした情報配信である。 続きを読む

D2C遺伝子解析サービスの使い方

一昨年から欧米でブレークし始めたD2C(Direct_to_Consumers)遺伝子解析サービスだが、23andMeを実際に利用したユーザーの体験ビデオが公開された。非常にわかりやすい。しかし、このユーザーは結果的に自分のデータまで公開してしまっているが大丈夫か?。最近、ハーバードメディカルスクールのCIOを務めるジョン・ハラムカ氏が、数年間にわたる自己の医療情報をすべてウェブに公開して話題になったが、むしろ自分の医療情報を積極的に公開する動きさえ一部に出てきている。「医療情報をシェアする権利」を最初に主張したのはPatientsLikeMeだが、従来のプライバシー観から逸脱するようなこれらの動きをどう評価すべきか?。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

April in Paris

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ジャズのスタンダードナンバーそのままに、ヨーロッパ初のHealth2.0コンファレンスが来年「四月のパリ」で開催されることが発表された。場所はパリの学生街「シテ・アンテルナショナル・ユニヴェルシテール・ドゥ・パリ」。(ビデオは「四月のパリ」エラ・フィッツジェラルド。素晴らしい!)

コンファレンス・アジェンダは以下の8つからなる。

  1. サーチ&コンテンツ
  2. 患者SNS
  3. 医師SNS
  4. コンシューマー・ツール
  5. 患者-医師オンライン・コミュニケーション
  6. プライバシー、データ、信頼性とHealth2.0
  7. 政府見解
  8. 医療界と医療機関

この中で、明らかにヨーロッパ向けにアレンジされたアジェンダは上記6および7だと思われる。今年に入って、米国Health2.0コミュニティでは「医療情報の流動性の確保」論などが強調され、旧来のプライバシー保護団体の過剰なプライバシー保護論に対する批判が起きているが、逆にヨーロッパ各国ではむしろ古典的三点セット「プライバシー、セキュリティ、信頼性」の確保が重視されており、これらヨーロッパの現状をどう評価するかが議論されるものと思われる。7は大半のヨーロッパ各国の医療制度が「国営医療」であることに配慮したものだと思われる。一般的に「国営医療」とベンチャー主体のHealth2.0の親和性は高くはないだろう。 続きを読む