ある臨界点をめぐる考察

最近、いろいろな人にお会いしてよく聞かれる質問に「あまり医療のことはよく知らないのですが、医療系ベンチャーにはやはり相当の医療の勉強が必要でしょうねぇ・・・」というのがある。それに対し「いいえ、むしろ医療のことをあまり知らない方が良いケースもありますよ」と応えると、たいてい意外な顔をされることが多い。

医療者でもないのに中途半端に医療界の事情通になったりすると、次第に自分が医療界のメンバーであるかのように錯覚しはじめ、挙句は医療界に成り替って消費者に説教までしだすような例をこれまで何度も目撃して来た。こういう連中は、最初は消費者中心医療とか患者目線の医療などと、消費者や患者を持ち出してむしろ医療界や官庁などエスタブリッシュメントに批判的なポーズを取ることが多いのだが、ある「臨界点」を超えてしまうと、逆に「医療界の事情」とか「国の医療政策」などと、訳知り顔に消費者に向かって解説し、啓蒙家を気取り始めるのである。まさに「ミイラ取りがミイラ」である。「国の医療政策はかくのごとく進展し云々・・・」などと役人作文然とした決まり文句を並べ、まるで「国営NPO」ででもあるかのような、そんなミイラ団体まで存在するから恐れ入る。

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墨東奇譚

先週、妊婦が複数の病院で受け入れを断られ死亡するという痛ましい事件があった。一旦は搬送を断り、結局受け入れた地域の総合周産期母子医療センターである都立墨東病院に対する舛添厚労相の批判と、それに対する石原都知事の反論などもあり、国と自治体の責任の押し付け合いという様相さえ見られた。

数年前に起きた奈良の同様の事件以来、この間、一切何も改善されず、ある意味で起こるべくして起きた悲劇と言えよう。この原因が深刻な産婦人科医の不足にあることは今さら言うまでもない。 続きを読む

コミュニケーションの問題

comm

国立国語研究所が、難解な医療用語の言い換え例をまとめ発表した。取り上げた57の医療用語を3グループ化し、それぞれ患者にわかりやすい言い方を示している。たとえば「予後」が「病状の見通し」、「浸潤」が「がんの広がり」というぐあいである。

患者の医療参加を進めていく上で、このような「言語の壁」はどんどん崩してもらいたい。特に問題は病名なのではないか。病名は固有名詞だから言い換えはむつかしいだろうが、表記の簡素化はできるはずだ。難解な漢字を並べた病名表記が多く、その読み方さえ分からない場合がある。また、「子宮頚がん」と「子宮頸がん」のように、同じ病名なのに表記が違う例も多く見受けられる。また医療機関や医療者によって病名が微妙に違う場合もある。さらに医療界だけの独特の読み方もある。闘病記を読むと、これらによって患者側に混乱が起きている場面にぶつかることがある。なんとか病名の表記と読み方の統一を、早急に実現してもらいたいものだ。 続きを読む

医療者向け情報ツール市場

20日付けのWall Street Journalで「変化のための処方箋」という医療IT分野の記事が掲載された。書いたのはアリゾナ州立大学のAMAR GUPTA教授だが、今後、情報技術が医療におよぼす変化について優れた洞察を提示している。この記事の冒頭、次のように語られている。「病院やその他の医療機関は長い間、医療機器、処置、治療などにおけるブレークスルー技術は素早く採用してきたが、ネットワークとコミュニケーションにおける技術革新にはきわめて乏しい注意しか払ってこなかった」。 続きを読む

全欧州の医療情報共有をめざすepSOS

epsos

ヨーロッパ各国の医療情報システムを相互運用する広域実験プロジェクトが開始される。このプロジェクトはepSOS(European Patient Smart Open Services)と名付けられ、欧州委員会の支援のもとにEU加盟12カ国が参加を表明している。これら各国はそれぞれ自国の国民医療情報システムを持っているが、今回の実験プロジェクトは各国システムを相互に接続し、EU市民がEU域内のどこにいても、自分の医療情報を利用できる環境を提供することをめざしている。背景には、近年、国境を越えた市民の域内移動が活発化しており、これに対応する医療情報システムが必要になっている事情がある。 続きを読む