米国EMR導入の現状: CBS”Sunday Morning”より


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9月13日のCBS”Sunday Morning”がEMR導入をめぐる米国における諸問題を取り上げている。これは”Charting a New Course”と題するニュースレポートで、現在オバマ政権が進めようとしている医療IT化政策が直面する問題を、非常に手際よくまとめている。

だが、このレポートでは肝心なところが抜け落ちている。これまで医療IT化が遅々として進まなかった原因は、医療現場や予算や「プライバシー&セキュリティ」問題だけではない。この春からの「CCHIT認証問題」や「EHR1.0批判」などで明らかになったように、旧来の医療ITベンダが提供してきた「過剰装備でコスト高の”完全無欠システム”」の問題が大きい。

●記事: “Charting a New Course” 

三宅 啓  INITIATIVE INC.

急速にクラウド化する医療情報システム

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EHR認証問題に端を発する「EHR1.0批判」は、HHSによる「意味ある利用」による認証基準策定へと行き着いたわけだが、これら一連の動きを見て、旧来のIT企業をはじめテレコム企業からパソコンメーカーにいたるまで、雪崩をうってEMR・EHRのクラウド・コンピューティング化に着手し始めた。医療情報システムのクラウド化は、最早、誰にも止められない大きなうねりとなって医療IT業界を席巻しつつある。

9月10日のNewYorkTimesによれば、GE、IBM、Dell、VerizonなどからEHR専業各社に至るまで、EMR・EHRのクラウド化構想が最近矢継ぎ早に発表されている。従来からEHRシステムを供給してきたGEは、特に小規模医療機関のニーズが「より簡単に、より安く」へシフトしていると認識し、来年早々にクラウド版EHRをリリースするとアナウンスしている。IBMはこれまでEHRシステムを供給していなかったが、やはり小規模医療機関を対象とするクラウドEHR市場への参入を表明している。テレコム企業Verizonは医療IT企業と組み、今後数カ月のうちにクラウドEHRをリリースする。 続きを読む

シフトするEHR認証基準: 技術基準から「意味ある利用」(Meaningful Use)へ

春先から米国ではEHR認証問題で論争が巻き起こってきたのだが、その中で登場したキイワードが「意味ある利用」(Meaningful Use)である。これら一連の論争の背景には、オバマ政権の医療IT促進政策、とりわけ巨額のEHR補助金をめぐる新旧医療IT陣営の戦いがある。

従来からプロプライエタリな「クライアント/サーバ・モデル」のEHRを手掛けてきたITベンダー各社に対し、「時代遅れでコスト高、しかも相互運用性が低い」との批判が高まり、この批判はさらにこれまで独占的にEHRの技術基準を定め認証を行ってきたCCHIT(Certification Commission for Healthcare Information Technology)およびそれを支援するITベンダー業界団体(HIMSS)に対する「利益相反」批判へと拡大したのである。(「EHR認証団体に対する利益相反疑惑」

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i-Japan戦略 2015

医療情報はウェブ上に氾濫しているが、本当に自分にとって必要な情報が見つからない。依然としてこのような消費者、闘病者にとっての「現実」が存在しており、これをどう解決するかが、ウェブ医療情報サービスに問われているのである。そして皮肉なことに、最も入手が難しいのが自分の健康状態に関する医療情報である。自分に関する医療情報は医療機関のEMRやEHRに蓄積されているはずだが、その情報に消費者・闘病者が直接自由にアクセスすることはできない。「自分に関する情報」であるのに、それにアクセスすることさえできないという、きわめて理不尽な状況がある。

たしかにEMRやEHRは医療者側の業務システムであり、消費者・闘病者がアクセスすることは想定されていない。だがこれでは消費者・闘病者側が自分の健康に関心を持ち、あるいは主体的に自己の疾患と向き合うことはできない。そこでPHRが必要になってくる。

先週、日経夕刊で政府の「電子私書箱」構想の記事を目にした。ここ二-三年の間に、たびたび目にしてきた「電子私書箱」だが、記事にはPHRに近い機能が盛り込まれているように書かれていた。また昨年来、経産省が中心になって「日本版PHR」の研究会や実証実験が進められていることも承知しているが、正直のところ、これら官庁主導プロジェクトを積極的にトラッキングしようという意欲も関心も薄れるばかりだ。久しぶりに「電子私書箱」や「健康情報活用基盤構築のための標準化及び実証事業」などの動向を少し調べてみたが、「電子私書箱」については、6月30日に発表されたグランドデザイン「i-Japan 戦略2015」における「各論」という位置づけになっていることがわかった。 続きを読む

EHR認証団体に対する利益相反疑惑

このブログでは「医療IT化をめぐる新旧両陣営の戦い」 などのエントリで触れてきたが、総額200億ドルとも300億ドルともいわれるオバマ政権の医療IT促進政策をめぐり、新旧IT企業陣営の戦いは熾烈さを増してきている。

この戦いはまず、米国においてEHR認証をほぼ独占的におこなってきた民間非営利認証団体CCHIT(Certification Commission for Healthcare Information Technology) に対する批判として始まった。このCCHITという民間団体は、2004年に医療IT分野の業界団体であるHIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)との非常に強い結びつきと強力な支援のもとに創設されており、HIMSSの理事がCCHITの理事を兼務し、また主要メンバーが大手医療IT企業であるなど、「業界団体の別動隊」のような性格を持つにもかかわらず、創設以来、米国政府の医療IT政策とくにEHRシステム基準策定と認証に関し独占的な役割を果たしてきたのである。 続きを読む