EHR認証団体に対する利益相反疑惑

このブログでは「医療IT化をめぐる新旧両陣営の戦い」 などのエントリで触れてきたが、総額200億ドルとも300億ドルともいわれるオバマ政権の医療IT促進政策をめぐり、新旧IT企業陣営の戦いは熾烈さを増してきている。

この戦いはまず、米国においてEHR認証をほぼ独占的におこなってきた民間非営利認証団体CCHIT(Certification Commission for Healthcare Information Technology) に対する批判として始まった。このCCHITという民間団体は、2004年に医療IT分野の業界団体であるHIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)との非常に強い結びつきと強力な支援のもとに創設されており、HIMSSの理事がCCHITの理事を兼務し、また主要メンバーが大手医療IT企業であるなど、「業界団体の別動隊」のような性格を持つにもかかわらず、創設以来、米国政府の医療IT政策とくにEHRシステム基準策定と認証に関し独占的な役割を果たしてきたのである。

そして昨年来、オバマ政権による巨額の医療IT投資支援政策が明確になるにつれ、この支援対象与件をみたすシステム基準と認証を一手に独占しているCCHITに対し、「IT業界団体がCCHITを使って、独占的に自分たちへ政府資金を呼び込もうとしている」との批判が高まったのである。要するに、本来中立的立場に立つべき認証団体による利益相反との批判なのだが、最初に批判の声をあげたのは、Health2.0コミュニティの中心的メンバーでアメリカ家庭医学会のシニア・アドバイザーも務めるDavid C. Kibbe医師など医師たちであった。そして、さらに5月からワシントンポスト紙が報じるにおよび、CCHITとHIMSSに対する批判は一挙に広がりを見せたのである。

これらの批判を重視したHHS(米国社会保険福祉省)は、8月14日、「医療機関等のIT導入に対する費用償還の対象となる医療情報システム基準については、今後、HHSが責任をもって策定する」との見解を公式に表明し、従来のCCHITによる基準策定と認証の事実上の独占状態を破棄することを決定した。

この「業界団体が医療ITの政府基準を決める」という話、日本でもありそうな話である。というか、もう既にCCHITみたいな動きはあるのではないか。しかし、「医療ITシステム基準」とやらを決めたり「認証」までする必要はあるのか、という素朴な疑問をおさえることができない。

<参考>
“HHS Takes On Health Records”
(washingtonpost.com, Saturday, August 15, 2009)

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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