シフトするEHR認証基準: 技術基準から「意味ある利用」(Meaningful Use)へ

春先から米国ではEHR認証問題で論争が巻き起こってきたのだが、その中で登場したキイワードが「意味ある利用」(Meaningful Use)である。これら一連の論争の背景には、オバマ政権の医療IT促進政策、とりわけ巨額のEHR補助金をめぐる新旧医療IT陣営の戦いがある。

従来からプロプライエタリな「クライアント/サーバ・モデル」のEHRを手掛けてきたITベンダー各社に対し、「時代遅れでコスト高、しかも相互運用性が低い」との批判が高まり、この批判はさらにこれまで独占的にEHRの技術基準を定め認証を行ってきたCCHIT(Certification Commission for Healthcare Information Technology)およびそれを支援するITベンダー業界団体(HIMSS)に対する「利益相反」批判へと拡大したのである。(「EHR認証団体に対する利益相反疑惑」

先月14日、HHS(保健社会福祉省)は、従来のCCHIT認証に代わる基準と認証の策定をおこない、EHR導入補助金支給資格を認証すると発表しているが、それら策定作業のコンセプトが「意味ある利用」(Meaningful Use)である。この「意味ある利用」とは次のように説明されている。

The focus on meaningful use is a recognition that better health care does not come solely from the adoption of technology itself, but through the exchange and use of health information to best inform clinical decisions at the point of care. (HHS,Health IT,Meaningful Use)

HHSのHIT政策委員会は、EHR認証導入ワークグループのイニシャル提言(HIT Policy Committee)に対する報告書を発表しているが、これを読むとHHSが何を目指しているかが非常によくわかる。上の「意味ある利用」説明にも明記されているが、「より良い医療は、単に技術の導入だけでは実現されない」ということに尽きるだろう。すなわち、「医療IT」における「目的」と「手段」の関係が、ようやく明確に認識され始めたということではないだろうか。これは当然、ITが「手段」であり、「より良い医療を提供すること」が「目的」であるはずなのだが、CCHIT認証などでは、ともすれば「IT」導入自体が「目的」化され、「技術基準」だけに焦点が当てられてきた。これらの反省に立ち、新しい認証基準は「技術」よりも「達成される医療」を焦点化するものとなった。これは医療ITの歴史において画期的なことだと言えるだろう。

また、たとえば「セキュリティ、プライバシー、相互運用性」という従来から重視されてきたポイントについても、「セキュリティ、プライバシー」についてはHIPAAなど現状法規遵守がうたわれているにとどまるのに対し、より積極的に「相互運用性、互換性」に重点を置く提言となっている。さらに、オープンソースEHRや独自開発システムなど「ノンベンダー・ソフトウェア」のEHRについても柔軟に対応すると明記されている。

「意味ある利用」とは、「より良い医療の実現」に対して有意なIT利用のことを指すのに違いない。医療にITを導入すること自体ではなく、IT導入によって達成される医療のアウトカムこそが問題になる、そんな時代が到来したということだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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