疼痛など主観的事実を可視化する: dimensions

distiller

dimensionsは薬品、治療法、医療機関、医療機器など医療関連固有名詞をキイとして、患者が体験した事実を可視化することをめざしている。現在、バグフィックス中であるが、追加機能や用途についていろいろなアイデアが浮かんできている。

薬品など固有名詞によって可視化されるのは患者が体験した事実だが、これはもちろん客観的な事実である。従来、患者体験は「闘病記」というパッケージで一括され、どちらかと言えば「作品コンテンツ」みたいに捉えられてきた。そうではなく闘病ドキュメントを闘病者が実際に体験した「事実」の集合体と捉え、それら事実群によって構成される「次元」を抽出することによって、医療現場で何が起きているかを可視化しようというのがTOBYOプロジェクトの基本的な立場である。

だが、客観的事実だけでなく、患者が体験した「主観的な事実」というものが一方には存在している。では闘病体験の中で最も重要な「主観的事実」とは何かと考えると、それはまず「痛み」だろう。「痛み」は唯一患者だけが体験する主観的事実である。そして実際に闘病体験ドキュメントにおいて、「痛み」について言及されることはきわめて多い。たとえば関節リウマチ患者の体験ドキュメントなどで、日々の痛みの頻度や程度が克明に記録されているケースをしばしば目にする。痛みの発生を時間表でマークしたり、痛みの程度を5ランクなどランキングや数値で表現したり、さまざまな主観的尺度が工夫され「痛み」の記録があちこちの闘病サイトで生成されている。痛みのほかにも、「気分、かゆみ、膨満感、吐き気」など多彩な主観的事実の記述は、闘病体験ドキュメントの多くの部分を占めているのだ。これらデータをどのように可視化し活用するかということも、dimensionsおよびリサーチ・イノベーションの大きな課題であると、最近になって認識し始めている。 続きを読む

三周年

camjatan

昨日、2月18日。TOBYOはサイトオープン3周年を迎えた。夕方、早々に仕事を切り上げ、事務所から明治通りを歩いて東新宿方面へ向かい、新大久保はずれの韓国家庭料理屋へ。午後から急に風が冷たくなったが、暖かいカムジャタン(写真)をつつき、薬缶に入ったマッコリを飲みながら、奥山とこの三年を語り合った。

収録サイト2,000でスタートしたTOBYOは、三年経って収録2万6千サイトと文字通り国内最大の闘病サイトライブラリーに成長した。当初なかった闘病サイトだけを対象とするバーティカル検索エンジンも稼働している。そして昨年から開発に着手したdimensionsも、基本開発段階を終えデビューを待っている。振り返ってみれば、三年という時間がどうしても必要だったと思う。

Health2.0関連のビジネスモデルがweb2.0一般のそれとはかなり異なることは、再三、このブログで指摘してきているが、TOBYOの場合、収録サイト数や検索インデックスページ数など量的蓄積のための時間が必要だった。では2万6千サイトで十分かと言えば、まだまだと思う。医療におけるリサーチ・イノベーションを実現する最低水準は2万サイトぐらいだが、もちろんデータは多ければ多いほどよい。三年経ってようやくリサーチ・イノベーションをはじめ、さまざまなチャレンジを実現する基礎が固まったというところだろう。 続きを読む

リサーチ・イノベーションとUGR: User Generated Research

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思い返してみると、web2.0において、やはりもっとも重要だったのはUGC(User Generated Content)という考え方だったのではないか。それ以前、各商用サイトは自前のコンテンツ制作に人もカネも時間も投入し、これが実はサイト運営における最大のコスト・ドライバーであった。「プロフェッショナルな完成度の高いコンテンツでなければ集客できない」とみんな思い込んでいたからだが、UGCという考え方の登場は、そんな迷信を根底からひっくり返したのだった。(もっとも、いまだに自前のコンテンツ制作に注力するところは後を絶たないが。)

UGCというコンテンツの制作と価値をめぐる考え方の転換によって、Flickr、YouTube、ニコ動などweb2.0を牽引するサービスが登場し、もはや「コンテンツはユーザーが作るもの」という考え方が当たり前になった。このことは調査においても言えるのではないか。従来は、プロのリサーチャーが調査設計をおこない、被験者に質問して回答を引き出してきた。基本的にこれは、プロの制作プロダクションがコンテンツを制作することと同じだ。だが2.0以降、「コンテンツはユーザーが作る」ようになったのだ。「ユーザーが作る調査」というものがあっても良いだろう。そこでUGR(User Generated Research)である。

おそらくリサーチ・イノベーションのベースに、このUGRというコンセプトを置くことになると思う。従来のレガシー調査の一般的実施手順というものをあらためて検分してみると、結局、「一定の基準のもとにデータを発生させ、回収し、分析する手順」ということになる。ところがUGRにおいては、データそのものがユーザーによって先行して生成されており、従来の調査手順の大半は省略されることになる。データは設問やインタビューを被験者に投げて、新たに被験者に生成させるものではなく、既に「被験者」の自発的意志によって生成されウェブ上に存在しているのだ。 続きを読む

リサーチ・イノベーションとTOBYOプロジェクト

marunouchi

昨秋、サンフランシスコで開催されたHealth2.0SF2010カンファレンスにおいて、イスラエルからFirstLifeResearch、そして日本からTOBYOが患者生成データに基づくまったく新しい調査サービスとして世界に登場した。イスラエルと日本から、奇しくもほぼ同時期に、ほぼ同じ発想に基づいて出てきた二つの新サービス。その意味するところを考えているうちに、いつしか私たちはこれらを医療における「リサーチ・イノベーション」と捉えるようになった。だが、これは何も医療分野に限ったことではない。

たとえば民意を探る世論調査なども、これからはわざわざ電話やメールで市民から新たにデータ収集するのではなく、ネット上に公開された膨大な人々のオピニオンを抽出し、集計し、分析することになるだろう。すなわち従来の調査が「質問することによって回答データを生成し回収する」ことに多大なエネルギーとコストを投入していたのに対し、これからの調査は「質問」を省き、「すでにあるデータ」をどのように早く、安く、効率的に活用するかを考えて実施されるだろう。 続きを読む

Health2.0ビジネスモデル再考2: リサーチ・イノベーション

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実は昨日エントリをポストしたのだが、今朝起きて改めて読み直し、結局削除することにした。昨夜、Health2.0のことをあれこれ考えて書いているうちに、筆は次第に熱を帯びて滑り始め、いつしか通俗的2.0論批判に行き着いていた。しかし今更、こんなことに関わり合うのも馬鹿げていると思い直した。「2.0」時代がそろそろ終わりかけようとしているのに、医療分野だけいまだに「2.0」が取りざたされているというのも、考えてみれば奇異な光景ではないか。通俗的で凡庸、おまけに一知半解の「2.0論」というヤツが、とりわけ医療分野に生きながらえてそれに十分辟易しているとしても、この上とやかく言うのもつまらないことだ。そんなことは無視して、今後のビジョンだけに集中すべきだろう。

一週間前のエントリで、「データとフロー」がHealth2.0ビジネスモデルを考える際のベースになるだろうと言っておいた。そしてこの「データとフロー」という対句をしげしげと眺めているうちに、いつしかそこから一つの言葉が、徐々に明確な輪郭をもって立ち現れてくる気配を、今年になって実感し始めている。それは「リサーチ・イノベーション」という言葉だ。Health2.0の一つのビジョンとして、また特にdimensionsの位置づけを検討しているうちに、「リサーチ・イノベーション」ということを最近考え始めるようになってきた。 続きを読む