書評:「インフォコモンズ」佐々木俊尚、講談社

まず、タイトルがピシッと決まっているのが気持ち良い。「佐々木本」はこれまでその内容に比して、あまりにも書名がダサ過ぎた。おそらく書名でずいぶん損をしてきたのではないか。今回の「インフォコモンズ」という書名は、佐々木氏の造語であるが、本の中身のまさにエクスプリシトな要約として秀逸である。この本は、いわばこの書名自身が自己展開され、様々な周辺概念を紡ぎ出しながら、独特の力動感を読み手に伝えることに成功していると思った。

インフォコモンズとは「情報共有圏」と説明されているが、これは当方がたびたび主張してきた「闘病ネットワーク圏」と通底する概念であり、その意味で著者の論考に共感するところは多い。ただしインフォコモンズは、たとえば検索エンジンによって検索ごとに可視化されるようなアドホックに生成される領域であり、これは情報探索者の能動的な検索行為のいわば「結果」として立ち現れる(emergence)可変的な領域と言えるだろう。それに対し、闘病者の情報共有圏である「闘病ネットワーク圏」は、闘病者による闘病体験の能動的なアウトプットによって自生的に作られてきた、一定の量と広さを持つ情報共有圏である。そのような差異はあるが、それよりも「パブリックな領域」として情報共有圏が位置づけられているところなど、当方の問題意識と共通する点は多い。 続きを読む

書評:「ウェブ国産力」佐々木俊尚著、アスキー新書

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一昨年春の「グーグル、既存のビジネスを破壊する」( 文春新書)以来、この著者の著書は、出るたびに全部目を通してきた。しかし、まず最初から苦言を呈することになるが、どうしてこうも「書名」がダサイのだろうかと、いつも思うのである。この本も著者が「佐々木俊尚」でなければ、書名だけでパスしてしまうところだ。まして「日の丸ITが世界を制す」とのキャプションまで見てしまうと、書店店頭で手に取ることさえ恥ずかしくてできないではないか。少しは読者のことも考えて、意を尽くした書名ネーミングをしてもらいたいものだ。

とはいえ、中身はさすがプロのジャーナリストの仕事である。現場に足を運んでの取材は、現実に生起している「コト」を丹念に掘り起こし、いつもながら関係者の生きたボイスを多声的に編み上げて提示して見せてくれる。なおかつリアルタイムに生成されてくる事実を、時間軸上に配列して、その出自から意味を問い直す手際は鮮やかだ。 続きを読む

書評:「誰が日本の医療を殺すのか」本田宏著、洋泉社

WhoKilledJapanMedicine遅まきながらの書評。医療界では評価が高いらしい。本書タイトルは、昨年六月米国で出版された、ハーバード・ビジネス・スクールのレジナ・ヘルツリンガー教授による「Who killed Health Care?」(誰が医療を殺したか?) を連想させるものだが、その内容は、ほとんど正反対だと言えるだろう。これを書名に即して言えば、「誰が医療を殺したか?」の「誰」が、両書ではまったく違うのである。それはヘルツリンガーの書においてはAMA(米国医師会)に代表される医療界守旧派であるが、本書著者の本田宏氏においてはどうやら「政府・厚労省」のことを指しているようだ。 続きを読む

医療の「不足と過剰」についての考察

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「医療崩壊」という言葉がブーム的な様相を呈し始めたのは、たしか一昨年あたりからだろうか。以後、医師ブログなどを中心として様々に論じられてきたのであるが、最近は「医師不足」をこの「崩壊」の直接的原因として取り上げる論調が多いように感じる。たとえば「貧乏人は医者にかかるな!–医師不足が招く医療崩壊–」(永田宏著、集英社新書)も、その過度に扇情的な書名は別として、それらに連なる一冊と言えるだろう。

「しかし、あと数年もしないうちに、われわれは厳しい現実に直面しなければならなくなる。医師不足は産科と小児科に限った話ではない。地方の病院に限った話でもない。ほとんどあらゆる科目において、すでに医師不足が限界にまで達しつつある。団塊の世代が後期高齢期(75歳以上)を迎える2025年までには、外科をはじめとする 続きを読む

Health2.0ブロードビジョン:ノート3

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二回に分けて、ブライアン・クレッパー氏とジェーン・サラソーン・カーン氏による「Health 2.0ブロードビジョン」をご紹介したが、まだ翻訳が十分にこなれていないので今後改善していきたい。

このブロードビジョンが発表されたことは、Health2.0ムーブメントにとって非常に大きな意味を持つだろう。なぜならこのブロードビジョンによって、Health2.0が医療全体を視野に収める「改革ムーブメント」であることが一層明確になったからである。Web2.0を出自とするHealth2.0ではあるが、両者の間に際立った差異があるとすれば、それは「明確な制度改革への意志」の有無ということになるだろうか。 続きを読む