三宅 啓 の紹介

株式会社イニシアティブ 代表 ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にすることをめざしています。

Health2.0ビジネスモデルとアカウンタビリティ

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先月、5月28日付NewYorkTimesに「患者がオンラインで出会った時、そこに副作用はないか?」(When Patients Meet Online, Are There Side Effects?)との記事が出た。PatientsLikeMeなど患者コミュニティのビジネスモデルを批判するものである。いずれプライバシー保護団体や医療界から、このような批判は必ず出るだろうと考えていたので意外感はない。

最近のエントリでも述べたように、これまで不分明であったHealth2.0のビジネスモデルは、SermoとPatientsLikeMeの成功のおかげで次第に明確になってきた。それを手短に要約すれば次のようになるだろう。

ウェブ上の患者や医療者の体験ドキュメント・会話を集め、医薬品業界など医療エキスパートに提供する。

ところでこのような実際のビジネスモデルと、Health2.0企業が表向き掲げる患者コミュニティや医療者コミュニティなどのサービスの間には、実は微妙なニュアンスの差異、あるいはいわく言い難い矛盾が存在するかも知れない。そしてこの点を情緒的に取り上げて突くような批判は、さまざまなバリエーションを持って、今後、常に現れてくるものと考えておかなければならないだろう。このNewYorkTimes記事は、そのような警鐘として受け止めるべきだと思った。 続きを読む

Gov2.0と公共医療データオープン化の進展

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(HHS米国保健社会福祉省の公共医療データオープン化概念図)

先月、米国ワシントンDCで「Gov2.0 Expo」が開催されたが、米国政府が持つ公共医療データなどを民間で自由に活用する機運が生まれている。このGov2.0ムーブメントは、Web2.0の提唱者であるティム・オライリー氏が中心となって米国政府を巻き込む形で進められているが、「Gov2.0 Expo」でオライリー氏自身は次のようにGov2.0を語っている。

政府はこれまでの形態を変え、政府自体がプラットフォームにならなければいけない。

今までの政府は「自動販売機」のようなものだった。市民がお金を払うことでサービスを享受するイメージ。しかし、Gov 2.0は政府が“enabler”(実現する人・もの・要因)になる必要がある。

Appleは自ら“enabler”になり、AppStoreというプラットフォームを立ち上げたことで、20万個以上のアプリがリリースされた。20万個のアプリの中でAppleが作ったアプリは20個以下だ。

天候の情報は政府が公式に提供しているから、その情報を加工してテレビ局やウェブが天気予報を独自に作ることができる。そういう発想がGov 2.0そのものだ。

義務教育やマーシャル・プラン、レーガンのGPS技術を導入など、過去に実現された偉大な政策を振り返ってみると、いつも大胆な発想の転換が求められてきた。偉大な政策を達成するには時間がかかるし、大胆でなければいけない。勇気が必要になるのだ。

現在の米国は、温暖化問題や医療改革、教育問題など様々な問題を抱えている。そうした問題に対処するには「今あるシステムをアップグレードする」という発想を捨てて、一から作るという発想が必要になる。Gov 2.0もそういうものだ。
BLOGOS、津田大介氏特別寄稿「Gov 2.0 Expo」速報レポート2日目

公開された公共医療データに基づいて、さまざまなアプリケーションやサービスが登場しつつあるが、「Gov2.0 Expo」ではIOM(国立衛生研究所)の「Pillbox」 が紹介された。 続きを読む

書評:「パーソナルヘルスレコード—21世紀の医療に欠けている重要なこと」

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先日、Health2.0 Tobyo Chapterでお目にかかったNTTデータシステム科学研究所の石榑康雄さんから、石槫さんが訳出された「パーソナルヘルスレコード—21世紀の医療に欠けている重要なこと」(Holly Dara Miller他著、石榑康雄訳、篠原出版新社)をいただいた。この場を借りて献本御礼申し上げます。

目次

序文
第一章:米国医療の危機的問題解消に求められるePHR
第二章:PHRの歴史と背景
第三章:ePHR、PBHR、EMR、EHRの定義・モデル・機能
第四章:市場要因の進化が後押しするePHR需要
第五章:医師と患者とPHR
第六章:PHRアーキテクチャ
第七章:医療参加者ベースのPHRの計画と実装;実践における検討項目
第八章:PHRにかかわる法規制
第九章:PHRビジネスの持続可能モデル
第十章:おわりに

まずは、日本でようやくPHRについてのこのような基本テクストが上梓されたことを喜びたい。これまでPHRに関してまとまった日本語文献は皆無であったが、この本の登場によって体系的かつ網羅的にPHRの基本知識を得ることが可能となった。これから日本でPHRを様々に議論する際、その共通認識としてこの本が利用されることになるだろう。 続きを読む

明確になりつつあるHealth2.0ビジネスモデル

Health2.0企業のビジネスモデルの現状を考えると、今のところあまりバリエーションがあるわけではない。私たちのTOBYOプロジェクトもいろいろな可能性を検討してきたが、結果的にはウェブ上の闘病体験データを集約し、医療エキスパートへ提供するというモデルへ収斂しつつある。私たちはこれをDFCと呼んでいるのだが、手短に言えばいわゆるリサーチ事業に含まれるものだ。だがDFCは、当面あくまでリサーチツールという性格を持つから、知見や洞察そのものを提供するものではない。

昨日のエントリでも触れたが、PatientsLikeMeやSermoをはじめ表向きは患者や医療者のコミュニティでありながら、実際はそこで生み出されるデータをエキスパートに提供するようなモデルが、現時点でのHealth2.0ビジネスモデルの主流になりつつある。この他にもサービスやデータをマネタイズする方法はあるはずだが、今のところ明確にはなっていない。

Googleグループの遺伝子解析サービスである23andMeもまた、このようなリサーチ事業をコアとしたビジネスモデルを追求している。“Sage Commons Congress”におけるプレゼンスライドで、23andMeのリサーチ事業を概観することができる。 続きを読む

医療分野におけるデータ公開・共有の新展開

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「真実を認める時が来た。われわれは創薬、薬品開発を、正しいやり方ではおこなっていない」と書かれたこのビジュアルは、去る4月23-24日、サンフランシスコで開催された“Sage Commons Congress”冒頭プレゼンテーションPurpose of Congress“の一齣である。そしてさらに「新薬承認にかかる現在のコストは、10億ドル、5-10年である」、「そして抗癌剤の75%は効かない」とのフレーズが続く。このプレゼンは製薬業界を批判するものではなく、より早く、より安く、より効き目のある薬を開発するための提言である。

新薬開発などにWeb2.0の集合知の流儀を導入し、ユーザーの生の声を開発現場に伝え、従来よりも圧倒的なコスト圧縮とより良い製品開発を実現しようという提言は、「ウィキノミクス—マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ」(ドン・タプスコットアンソニー・D・ウィリアムズ、日経BP) などで既に語られていたが、最近、これら構想を実際に実現しようとする具体的な動きが多数見られるようになった。この”Sage Commons Congress”(Share-Evolve-Cure)もその動きの一つである。

考えてみれば、PatientsLikeMe、Sermo、23andMe、そしてわれわれのTOBYOなども、患者や医療者が生成するデータを新薬開発などへフィードバックするものであり、この「マスコラボレーション」というコンセプトの実践をめざすものである。だが、”Sage Commons Congress”などを見ていると、単に一企業やグループ企業のみならず、もっと医療界横断的に知識・データ共有を進めようという意図が伝わってくる。 続きを読む