三宅 啓 の紹介

株式会社イニシアティブ 代表 ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にすることをめざしています。

新しい患者像と患者SNSをめぐって

ときどき「患者SNSはどうあるべきか?。またそのフィージビリティは?」という議論をすることがあるのだが、米国の状況を見ていると、PatientLikeMeのような特化型患者SNSが成功しているのに対し、いわゆる一般的な汎用患者SNSはさほど成果を挙げていないようである。この点をどう読むかが、患者SNS開発の一番重要なポイントであるだろう。

患者SNSに対するユーザーニーズは、どうやら「似た者同士の交流」というような、誰もがすぐに思いつくものとは、まったく違うものとして考えなければならないのではないだろうか。「心の安らぎ」とか「慰安、癒し」などをシェアする場としてではなく、先日、ニューヨークタイムズがPatientLikeMeの紹介記事にいみじくも付けたヘッドライン「Practicing Patients」が示すように、「アクティブに病気を克服する実践的な活動の場としての患者SNS」という新しいイメージを持つことが、いまや必要になっていると思うのだ。 続きを読む

「同質化」を越えて行く発想

NYC_MindSpace

ニューヨーク市保健局はこのほど、最大手SNSであるMySpace.comに10代の若者を対象とするキャンペーンサイト「NYC TEEN MINDSPACE」  をローンチした。欧米では若者のマスメディア離れが急速に進んでおり、マスメディア中心の従来型キャンペーンではターゲットにリーチできないとの判断から、SNS中心のキャンペーン展開に踏み切ったようだ。

このサイトでは、クイズやゲームを用意したりキャラクターを設定したりして、若者が気軽に楽しみながら健康情報を利用できるような工夫をし、特に「うつ、ドラッグ、暴力」など、ニューヨーク市の若者が直面している問題に取り組んでいる。

ところで、なぜこのニュースを取り上げたかというと、新しいヘルスケアのサービス開発を考える際、この「ティーンエイジャー」という層が、これまでほとんど無視されてきたのではないかと思ったからだ。たしかに医療に対するニーズは、一般に高齢者ほど高まるだろうから、自然とその開発方向はおしなべて「シニア」へとシフトするだろう。だが、闘病サイトの現状を見るなら、「うつ」をはじめ、特にメンタル系の病気で10代の若者による闘病記が激増していることに気がつくはずだ。 続きを読む

この秋のMedicine2.0コンファレンス

medicine2.0_site

来る9月4日、5日、カナダのトロントで開催が予定されているMedicine2.0コンファレンスの概要が徐々に固まってきている。公式サイトのトップページに記載されている出席対象者を見ると以下のようになっている。

  • 学者(医療専門家、社会科学、コンピュータサイエンス、エンジニア)
  • ソフトウェアとWeb2.0アプリケーションの開発者
  • コンサルタント、ベンダ、ベンチャーキャピタル、経営者、情報担当
  • エンド・ユーザー(医療専門家、消費者、ペイヤー)

このようにこのコンファレンスは、Health2.0コンファレンスと比較すると、どちらかと言えば医学を中心とした学術的色彩の強いコンファレンスを目指しているようだ。これはまた、医療消費者の改革ドライビングパワーを強く意識したHealth2.0ムーブメントへの、医学アカデミズム側からの対応と言えるかも知れない。そしてさらに、Web2.0が医療に与えるインパクトを医学アカデミズム側がどのように受け止めるべきか、という問題意識がとりわけ強く持たれていることもうかがえる。

Health2.0であれこのMedicine2.0であれ、「Web2.0と医療の間には、強い親和性があるはずだ」という直感的なコンセンサスがベースとなったムーブメントであると思う。別の言い方をすれば、このような「直観」がはたらかなければ何も起こらないということだ。そしてこの「直観」を持つか持たないかが、20世紀医療にとどまるか、次世代医療を構想し行動するか、という二つの態度を鋭く切断して分岐するものだと当方は考えている。以前のエントリでも述べたように、「2.0」とは「切断」の表徴であるからだ。

Health2.0とMedicine2.0。ではこの二つの「2.0」は、これまでの医療観にどのような切断線を引こうとしているのか。今、このことに最も興味がある。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

Health2.0ビジネスを加速する「Health2.0 Accelerator」

Health2.0Accel

昨秋、サンフランシスコで開催された第一回Health2.0コンファレンスにおいて、実は地味であまり目立たなかったのだが、一つ非常に興味深い提案があった。それはHealth2.0を一過性のブームに終わらせることなく、確実に成果を生み出すビジネス領域へと早急に育成するために、アクセラレーター(加速器)のような組織を作ってはどうかという提案であった。

そしてこのビジョンを提案したのが、かつてインターネット黎明期に「CommerceNet」(1994)を設立し、e-コマース発展の触媒として大きな役割を果たしたといわれるMarty Tenenbaum氏である。ちなみに、初期のCommerceNetメンバーには、ネットスケープ、ヤフー、そしてアマゾンなど後に急成長する錚々たる企業が名を連ねていたが、これらも当時は駆け出しのスタートアップ企業にすぎなかったのである。CommerceNetは、これらスタートアップ企業が成長するためのいわばビジネス・インフラ整備を進め、ウェブ業界が巨大な産業分野に成長することに寄与したのである。 続きを読む

病院レーティング

今日は来客があり、ひとしきり新しいヘルスケア・ビジネスについて意見交換したのだが、ずいぶん久しぶりに病院レーティングの話題が出た。思えば当方は、数年前、この病院レーティングを事業化しようと起業したのだった。それが紆余曲折を経て、結局、TOBYO開発へとたどり着いたのだが、その後の日本の病院レーティング・サービス分野を見ると、どうやらさしたる成果も上がっていないように見受けられる。

日本の場合、病院の情報開示が遅れており、レーティングに必要な基礎データの入手が難しいことがこの分野の事業化を困難にしている。特にアウトカム(治療成績)データだが、これは病院レーティングには必須であるにもかかわらず、ほとんど病院からは公開されていない。まれに病院サイトで公開されている例も目にするが、非常に恣意的な公開方法がとられており、病院を相互比較できるようなものではない。 続きを読む