EHRを各種ソリューションのプラットフォームへ


厳寒のせいだろう、新宿御苑の梅はまだ硬い蕾で例年よりも開花は遅れている。

前回エントリでEHRの新たな可能性について触れたが、これに関連し、他にもさまざまな方向からのアプローチがあることがその後わかってきた。その中の一つは、EHR上に医療情報サービスの統合プラットフォームを提供しようとするもの。そして今一つは、それぞれのEHRの仕様の違いを越えて患者データをアグリゲートするものである。

上に掲出したCMのDr.Firstは前者のサービスである。もともとこの会社はEHRベンダー各社に対し電子処方箋サービスを提供してきたが、今日ではより広くEHRをプラットフォームとした各種ソリューションの提供をめざしている。たとえば薬剤コンプライアンス・プログラム、患者教育プログラム、薬剤共同購入ディスカウント・サービス、さらには患者の薬歴を集約し医療機関や検査ラボに提供するサービスなどである。 続きを読む

EHRは医薬品情報配信の新たなチャネルになるのか?

このブログではEHRの話題はずいぶんご無沙汰だったが、オバマ政権誕生以来、米国では政府の強力な導入促進政策が功を奏して、EHRは急速に全米の医療機関に導入されつつある。

ところで普通EHRというと、これまで診療記録など、各種医療情報記録のためのデータベースということが主たる利用イメージであった。しかしEHRの普及が進むに連れ、せっかくほとんどの診療現場がEHRで結びつけられようとしているのだから、単なる記録用データベース以上の使い方をしても良いのではないか、という声が昨春あたりから起き、新しい模索が始まったのである。現在、政府FDA、製薬企業、EHRベンダー、ペイヤー、医療情報サービス企業などが、これら新しいEHR利用の研究に乗り出している。従来、EHRとはほとんど縁のなかった製薬企業などが関心を示し始めたのだ。

EHRの新しい用途として考えられているのは、診療現場へダイレクトに情報を配信する情報チャネルとしてEHRを利用しようというものだ。たとえば、FDAの各種規制情報や医薬品副作用情報の配信、製薬企業の医薬品情報配信やマーケティング・チャネルなどへの利用が検討されている。 続きを読む

ウェブ医療サービス時評 2012.2

AdverseEvent

2月に入ったが例年にない寒さだ。先月下旬から当方、痛風発作に見舞われ自宅蟄居状態が続いたが、ようやく回復。歩行リハビリ中。「アルコール・リハビリ」もする予定。

さて年明け早々、WebMDの経営が行き詰まり、トップが辞任するというニュースが伝わってきた。あの「WebMD」がである。「まさか!」と思ってニュースを読むと、近年ユーザー離れとスポンサー離れがかなり深刻になっていたらしい。当然スポンサー筋は製薬企業中心だが、特に特許切れでジェネリックが進出している薬剤のプロモーション費用をすべてカットされたらしく、これが収益構造を直撃したようだ。

また、医師コミュニティの代表格だったSermoもここへきてかなり苦戦している。昨年12月のアクセスデータを見ると月間ユニークユーザー数激減(このままでいくと月間1万を切る)。訪問ユーザーの平均サイト滞在時間は5分。大丈夫か? 続きを読む

医師コミュニティの考察: SermoとQuantiaMDをめぐって

この前ご紹介したQuantiaMD Japanに「プライベート・ディスカッションズ」機能が追加された。これは招待制のディスカッション・ルームで、使い方として「自分の診断に対してセカンドオピニオンが欲しいとき。同じグループで患者に関するディスカッションが必要なとき。院内の連絡事項やニュースの共有。書類の共有。知り合いの医師と連絡を取りたいとき。」などを想定しているようだ。

最初、このサービスはSlideShareの医療版のように見え、コミュニティ機能は弱いように思えたが、今回の「プライベート・ディスカッションズ」の追加によって医師SNSとしての基本的体裁は整えられた。「SlideShareの医療版」という点も、単純でありがちな着想に見えるが、実は非常にイノベーティブなアイデアだと思う。エントリやコメント単位ではなく、プレゼン・スライドという情報単位が医学情報に親和性が高いからである。プレゼン・スライドであれば、文字情報だけでなく図、写真、動画、音声などの情報を簡単に取り込むことができる。これらプレゼン・スライドをデータベース化すれば、ビジュアルな医学百科事典ができあがるだろう。

またQuantiaMDは、収載スライドを一般ユーザーにも公開している。これまでの医師コミュニティは一般ユーザーをシャットアウトし、中でどんな新しい医学的知見が配信・共有されているかを見ることはできなかった。QuantiaMDでは公開スライドを通して、患者が自分の病気について最新の医学情報を学ぶことができる。患者向けのスライドやツールも用意されている。以前も言ったことがあるが「Health is SOCIAL」なのだ。医学情報は密室コミュニティに封印するのではなく、広く社会的公開をめざすべきだろう。その意味で、あくまでこれは当方の希望的観測だが、今後、医師SNSは密室コミュニティから、患者や社会との接点を意識したオープン型コミュニティへ移行するのではないか。つまりSermo型の「医師だけのコミュニティ」の時代は終わり、社会に開かれた医師コミュニティの時代の到来を、このQuantiaMDの登場は告げていると考えられる。 続きを読む

食べログに関する諸々

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上の写真は、当方オフィス壁にあるカレンダーだ。妻からもらったものだが、絵がなんともユーモラスで面白い。とりあえず、一月から三月までのワンクール分を貼ってみた。そう言えば、一月も終りが見えてきた。

年明け早々、ネットでは「食べログやらせ問題」というのが出てきて、現在もあちこちで議論されている。このようなクチコミ・サービスでは、「やらせ」は当然あるとの前提で情報を利用するのが普通だ。そこを、極端な公正さをもとめること自体が間違いだ。「やらせかどうか」などといくら追及してみても、ムダというものだ。そんなものは最初からある、と考えるべきだ。

ところで昨年ニューヨーク・タイムズに、ある患者がクリニックへ行ったら、医師から藪から棒に「私は今回の診察および治療について、ネット上のクチコミサイトには一切投稿しないことを誓約します」との誓約書にサインするよう求められたという記事があった。米国では、医師個人に対するクチコミ評価サイトが大繁盛しており、これに対し医師側からは「医師のプライバシーと権利を守れ」との反対論が強く出されている。

この患者の場合、身体の痛みを早く何とかしてもらいたいので、やむなく誓約書にサインをしたが、後日、症状が一向に改善しないので、医師評価クチコミサイトに「〇〇医師の治療は最低だ」とのコメントを書き込んだ。これが医師に見つかり、患者の手元には誓約書違約金の請求書が医師から届けられたという。患者はこれを不服とし、現在、係争中である。

この伝でいくと日本でも、たとえばラーメン屋に入ってラーメンを注文したら、「私は、この店のラーメンについて、食べログなどクチコミサイトで不当な悪評コメントを、一切書きこまないことを誓約します」との「ラーメン誓約書」に、まず署名してからラーメンを食べるよう店から要求されることになるのだろうか。これはめんどうだ。 続きを読む