パッケージからデータベースへ

先週、TOBYOが国会図書館Dnaviに収録されるというニュースをお知らせした。このことの意味を考えながら思い出したのは、6月初め日経新聞に掲載されたTOBYO紹介記事のことである。あの記事では、たしかTOBYOを「患者体験データベース」みたいな表現で紹介していたのだが、実はそれを読んで大きな違和感を感じていた。これまで「データベース」という言葉でTOBYOを考えたことがなかったからだ。

だが、今回の国会図書館Dnaviも「Deep Webにおけるデータベース」との表現によって、やはりTOBYOを「データベース」と見ているのである。「他人から見ると、そう見えるのか?」との意外感があるのだが、この他人のTOBYO観も一概に否定すべきではなく、そこに何か、新たに学ぶべき視点があるような気がしている。 続きを読む

広告業界の後姿

昨日エントリで、戦後日本の消費社会を画する「潮目」の話をした。この「潮目」以降、コマンド&コントロール型マーケティングは実質的に終わったのであるが、そのことはまた、このタイプのマーケティングのエンジン役を果たしてきた広告業にも影響を与えることになった。本当は、それは広告業界にとって本質的な「脅威」であったが、このことを表だって広言する者はおらず、「脅威」は水面下に封印されてしまったのだ。

そして「潮目」からおよそ10年たった1995年。インターネットが本格的に社会に浸透し始め、それまで水面下に静かに潜行していた「脅威」はその破壊的パワーを蓄積しつつ、徐々に浮上し始めたのである。だが20世紀を通じて、水面下の「脅威」は可視化されず、誰もが「業界」という船上豪華パーティーにうち興じていた。 続きを読む

新しい医療ニーズへの洞察力

昨日、四年前に起きた福島県立大野病院事件で、福島地裁は医師側に無罪の判決を言い渡した。朝刊各紙ではこの判決を概ね妥当なものとしながらも、被害者および消費者側の医療不信にも言及している。事件当時から当方は、そもそも警察が医療事件を捜査すること自体に無理があると思え、また最善を尽くした医師を断罪することはできないとも思えたので、今回の判決に異論はない。

だが、日経紙面に「医師・患者、通い合わぬ論理」との見出しがあるように、今日の日本では医療者側が主張する「医療崩壊」と患者・消費者側が上げる「医療不信」の声が対峙し、まるでその間に架橋しがたい断絶があるかのようである。今回の事件はこのことを改めて鮮明に照らし出している。

ではこの「通い合わぬ論理」や「断絶」の原因を、一体どこに求めればよいのだろうか。これについても医療者側と患者・消費者側の双方にそれぞれの言い分があり、お互い相ゆずる気配はない。医療者側の言い分としては、昨年あたりから相次いで刊行された医師による著作、たとえば「医療の限界」(小松秀樹)や「誰が日本医療を殺すのか」(本田宏)などを読めばその概略をつかむことはできる。そこでは「日本人の死生観」の問題であったり、大衆消費社会によって「増長」してしまった消費者意識であったり、さらには「新自由主義の社会風潮」などが「元凶」として批判されている。このブログの書評でもこれらの本は取り上げてきたのだが、なんというか、これらの「医師本」の時代認識には大きな疑問符を付けざるを得なかった。そもそも、その「大衆に向けたお説教」みたいな語り口に辟易してしまったのである。消費者大衆に向け「きちんとした死生観をもて」などと説教しようという、そのアナクロな感性にまったく同調できないのだ。これでは医療者と患者・消費者の間にある溝は、ますます広がるばかりである。 続きを読む

TOBYO、国立国会図書館Dnaviに公式登録される

kokkai

今日、国立国会図書館から当方へ連絡があり、TOBYODnavi(国立国会図書館データベース・ナビゲーション・サービス)に登録されたとのこと。まったく予想外のことで驚き面食らったが、早速そのDnaviサイトを調べてみると次のような説明があった。

[Dnaviとは?]

インターネット上に存在する豊富なデータベースは、学術研究はもとより、 多方面にわたる調査に不可欠であり、質的にも量的にも重要な情報資源です。国立国会図書館データベース・ナビゲーション・サービス(Dnavi)では、 これらのデータベースについて書誌情報(メタデータ)を作成し、当館ウェブサイトからリンクすることによって、ナビゲーション・サービスを実施します。

以上の説明に続いて、さらに「Deep Web」に関する以下のような解説が付されていた。

Deep web

ワールド・ワイド・ウェブ上には数十億のウェブページがあると言われていますが、実はこれはウェブ全体のごく一部に過ぎません。有用で貴重な情報資源の多くは表面的なウェブページではなく、データベース等の「深層」に格納されており、アクセスの都度、動的に生成されています。深層ウェブ(Deep Web)の大きさは、表層ウェブ(Surface Web)の大きさの約550倍、約9万1,850テラバイトにも及ぶ、との試算もあります(注2)。国立国会図書館データベース・ナビゲーション・サービスでは、これらの膨大な情報資源をより有効に活用できるよう、「Deep Web」の入り口まで、皆様をご案内します。

続きを読む

パブリックという概念をめぐって

先日、英国の医療家系図による新サービス「MyFamilyHealth」を紹介したが、考えてみればこれは、数年前に米国HHS(保健社会福祉省)公衆衛生局と国立ヒトゲノム研究所が共同開発した「My Family Health Portrait」を焼きなおしたものと言えよう。家系図という分かりやすい概念を使って、遺伝子情報の公衆保健サービスへの利用を促進しようというこの米国政府プロジェクトは、今日から見てもたしかに先見の明があった。

ところで、このような遺伝子情報をベースにした医療家系図サービスを日本で実施するとしたらどうだろうか?。おそらく遺伝情報や家系情報などプライバシーにかかわる情報を「公衆衛生」という名のもとに利用することに対して、相当の反発が立ち上がるのではないだろうか。またこのことは、日本における最近の「GoogleMapsストリートビュー論争」などとも無関係ではないような気がする。 続きを読む