医療とITの不思議な関係

オバマ大統領の医療政策が、次第に明らかになってきている。いささか乱暴に要約してしまうと、医療保険加入者の拡大とHIT(医療情報技術)導入推進による医療コストダウンということになるだろうか。後者だが、「5年以内にすべての医療情報を電子化する」とのオバマ大統領発言を聞いて、「あれ?、じゃNHINはどうなるんだ?」と素朴な疑問が湧くのである。

NHIN(National Healthcare Information Network)構想は、ブッシュ政権の医療政策の目玉として華々しくブチ上げられた。たしか当初計画では「2012年までにすべての医療情報を電子化し、全米医療ネットワークを構築する」との目標が掲げられていたはずだ。だが一昨年あたりからこの計画に対し、あちこちで疑念が囁かれるようになった。HHSのレビット長官の孤軍奮闘もむなしく、現に計画進捗状況は大幅な遅れを見せていたからだ。 続きを読む

知識情報の構造化

昨日のエントリでは「ここまで来ると、更にもっと可視化を進め闘病ネットワーク圏の全体像をとらえることができればと思う」と書いた。これは現時点での正直な感想である。だが、これとはいささか矛盾するかもしれないが、情報の単なる量的拡大だけで胸を張って「良いサービス」と言えるかと考えると、必ずしもそうではないだろう。

年初から、TOBYOトップページに「患者の叡智(Wisdom of Patients)」というスローガンを掲げている。これは、闘病ネットワーク圏に蓄積され共有された大量の知識と体験のことを指している。もちろんまず、この膨大な「知識と体験」をすべて可視化し利用可能とすることを、私たちは目指している。だがその次に、膨大な知識情報を利用しやすい形に構造化しなければならないだろう。TOBYOには、たとえば「乳がん」や「うつ病」のように800を超える闘病サイトを擁する疾患もある。これらを単純にリスト提示しただけでは、かえって利用しずらくなることもあり得るだろう。大量の知識情報に何らかの秩序を与え、ユーザーの利用目的に最適化されるような構造化が、いずれどうしても必要になるのだ。そのための最初の具体プランもすでに検討済みで、検索エンジンのパワーアップが終わり次第早く着手したい。 続きを読む

「医療プライバシーは死んだ」

先週、米国IT界の教祖的存在として知られるRobert Scoble氏 がfriendfeedに「医療プライバシーは死んだ」と投稿し、大きな反響を呼んでいる。

  1. あなたの病気を公開すれば、他の人が助けてくれて、ドクターよりも多くの情報を教えてくれる
  2. あなたの病気を公開すれば、他の人が、あなたがこれまで考えたこともないようなアイデアを教えてくれる。(このことが今夜私に起きた)
  3. あなたの病気を公開すれば、あなたの人生で何が起きているかを他の人に言うだけで、気分はすっきりする。
  4. あなたの病気を公開すれば、あなたが治療計画で騙されないように、他の人が確認してくれる。

         (“Health privacy is dead. Here’s why:”
    January 21 at 1:25 pm)

以上の氏の問題提起に対し、様々な人々がコメントを書き込んで興味深い「医療プライバシー」論議が展開されている。一読の価値あり。先週、「医療情報の流動性」についてエントリを書いたが、流動性にかかわる一つの大きなポイントが「プライバシー」問題であることは間違いない。たとえば一昨年から立ち上がってきた大規模PHRに対しても、現にいくつかのプライバシー保護団体から疑念と規制強化の声が上げられている。「プライバシー保護」という大義名分が医療情報の流動化規制のロジックに使われる可能性は高く、しかもこれに対して異論を唱えにくい空気もある。だが、プライバシーをまるで不可侵聖域のように扱うことは常に正しいのか。Robert Scoble氏の投稿は、この問題に一石を投ずるものであり、いささかセンセーショナルなタイトルながら、これ以上ない直截さで要点を語ってくれている。 続きを読む

ソーシャルメディアを活用する米国病院


YouTubeやFacebookなどソーシャルメディアを活用し、消費者とのコミュニケーションや医療情報発信に注力する米国病院が増加している。米国主要病院150のソーシャルメディア利用実態は以下のとおり。

やはりYouTubeで映像情報を配信する病院が多いようだ。この場合、病院所属の医師紹介、先端的医療技術や疾患情報の配信などが一般的だが、上にあるMayoClinicのビデオ「Patient Stories」のように、患者が自分の体験を語るビデオも増えてきている。一般の消費者からすれば、この病院でどんな治療が受けられるか、実際に体験した患者の口から聞くのが一番わかりやすく説得力もある。今後、このような患者体験ビデオ配信が増えることは間違いないだろう。 続きを読む

レセプトオンライン化提訴って?

今朝未明、うつらうつらしながらラジオのニュースを聞いていると、アナウンサーが淡々と「レセプトオンライン化に医師グループが提訴」とのニュース読み上げているのに気がついた。「えっ?まさか。冗談だろ。夢でも見てるんだな」と思い直し眠りに戻った。だが、事務所へ出て半信半疑ながらネットで調べてみると、次のような記事があるではないか。

レセプトオンライン請求義務化は憲法違反 医師ら961人が提訴
産経ニュース 2009.1.21 21:48

厚生労働省による診療報酬明細書(レセプト)のオンライン請求義務化は、営業の自由などを侵害する憲法違反だとして、35都府県の医師や歯科医師961人が21日、国に対して、義務の不存在確認と1人あたり110万円の損害賠償を求める訴訟を横浜地裁に起こした。

レセプトのオンライン請求義務化は平成20年4月から段階的に実施されているが、23年からすべての医療機関で義務化される。原告らは、「オンラインでの請求には新たに専用のパソコンを導入する必要があり、100万~300万円の費用がかかるため対応できない。医療機関は診療報酬の請求ができなくなり、廃業に追い込まれる可能性もある」と主張。

また、情報漏洩(ろうえい)の危険性があるほか、法律による改正ではなく、省令改正で診療報酬請求権に制限を設けるのは違憲としている。

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