患者ブログ調査プラットフォーム d2

d2 LOGO

秋が深まり、石神井公園の木々も少しずつ色づいてきた。夏から秋へ。ずいぶんブログを放置してしまったものだが、dimensions2開発の最終ラウンドに取り組んでいた。当初、9月完成の予定だったが、最終調整を経て10月から正式サービス稼働にこぎつけることが出来た。やれやれである。すでに大手製薬会社さんの採用も決定しているが、これから多くの医療関連の企業、団体にご利用いただけるものと確信している。

ところで、まずこのエントリをご覧になって「おやっ?」と思われた方も多いだろう。「d2」という見慣れない文字があるからだ。これは「dimensions 2」の略称である。どうも「ディメンションズ・ツー」というのがいかにも長ったらしいので、短く言い切って「d2」(ディーツー)にした。当面、従来のブランドシグネチャは残すが、いずれ「d2」に集約したい。

患者5万人の声を集大成した、ワンストップ調査プラットフォーム。

d2とは何かと問われたら、畢竟上記の文言になる。過去10数年間、数万を越える患者によって、次々にウェブ上に公開され蓄積されてきた膨大な量の闘病記録。私たちはこれを「闘病ユニバース」と呼んできたが、いまだかつて、これほどまでに大量で多彩な患者体験が公開されたことは歴史上なかった。そしてこの貴重なデータによって、日本の医療の実態が患者視点から可視化され、患者のニーズと感情の精緻な理解に基づいて医療変革が可能となる。このことは誰もが首肯するところだろうが、残念ながら、これまでウェブ上のかくも膨大な患者記録をうまく有効活用する方法がなかったのである。せっかく貴重なデータが大量にありながら、これはもったいないことである。社会の損失である。

私達のTOBYOプロジェクトは、以上のような状況を少しでも変えたいとの思いから出発したといえる。そしてウェブ上の闘病記録を活かすためには、とにかくまずウェブ上の闘病記録を少しづつ集めるところから始めるほかなかった。ずいぶん長い時間がかかってしまったが、きちんとしたデータ収集をしなければ後のステージはないと考えていた。

やがて3万件、5万件とネット上の闘病記録を収集しデータベース化してきたわけだが、ようやくこれらデータ集積サイズを使って、患者が何を体験し、何を感じ、何を望んでいるかを社会に伝えていくフェーズに達したと考えている。d2はそのためのワンストッププラットフォームである。これから少しづつ、d2の機能についてご紹介していくつもりだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

患者ブログからの意見・評価情報抽出の研究

三つ組、手がかり語、実験システム概要

論文「闘病ブログに出現する(薬剤名,対象,効果)で表される薬剤服用情報の抽出」(北海道大学情報科学研究科,北嶋志保,他)をめぐって

先のエントリ「患者による医療評価」にも述べたが、目下、新規サービス「OPINIONS」の開発に取り組んでいる。これは大きく2つのパートからなっている。ひとつは闘病ブログから患者の薬剤・病院・治療など医療に対する意見・評価を抽出し、評価タイプや極性(ポジティブ、ネガティブ)によって分類して提供しようというもの。今ひとつは、患者の医療に対する意見・評価をアンケート設問形式で集計出力し、たとえば「薬剤レミケードについて『効いた』と答えた人が〇〇人、〇〇%。『効かなかった』と答えた人が〇〇人、〇〇%」というわかりやすいかたちで提供しようとするものだ。

この2つの機能からなる「OPINIONS」によって、闘病ブログに表現された患者の知識・体験を個々の「物語」としてではなく、ウェブに集積された「患者の集合知」として捉え、その全体の傾向をできるだけシンプルに抽出したいと考えている。たとえば、TOBYO収録の乳がん患者ブログはすでに4000件を越えているが、それらをひとつひとつ「物語」として読んでいくとすれば、それだけで多大な時間を費消することになるだろう。何年もかかるかもしれない。たしかに、そこには多くの興味ふかいエピソードが存在するだろうが、「患者の医療評価」という視点で全体の傾向を抽出することのほうが、おそらく社会、患者、医療業界にとって有益であると思われる。

「ウェブに集積された集合知」から意見や評価情報を取り出す試みは、ゼロ年代から10数年にわたり、多くの研究者によって続けられてきている。医療分野における患者の意見・評価抽出についてもさまざまなチャレンジがあるが、今春、日本知能情報ファジィ学会誌「知能と情報」に発表された論文「闘病ブログに出現する(薬剤名,対象,効果)で表される薬剤服用情報の抽出」(北海道大学情報科学研究科,北嶋志保,ジェプカ  ラファウ,荒木  健治)には、TOBYOのバーティカル検索エンジン「TOBYO事典」データを用いた薬剤服用情報の抽出実験が紹介されており、そこに示された新知見から、当方「OPINIONS」開発にも大きな示唆をいただいた。ここに感謝しておきたい。 続きを読む

23andMe社が新薬開発へ進出

23andMe CEO and Founder Anne Wojcicki,Forbes

「製薬企業は消費者との直接の関係を持っていない。消費者はいつも被験者だった。彼ら消費者に参加してもらい、『あなたがこの研究に貢献し、あなたがこの研究を実現したのだ』と称揚することで、私達はこれまでと違うやり方でものごとを達成できるだろう。」 (23andMe社CEOアン・ウォイッキ氏,The Verge)

3月12日、米国23andMe社は新薬開発事業に進出することを発表した。23andMeといえば、かつてゼロ年代に台頭したHealth2.0ムーブメントから登場したスタートアップであり、Googleのグループ会社として、さらにはCEOのアン・ウォイッキ氏がGoogleファウンダーのセルゲイ・ブリン氏の妻であったことも手伝い、ひときわ大きな注目を浴びた企業だ。

99ドルで遺伝子解析キットを直接消費者に販売し、回収・解析の上、疾患罹患リスク予測や先祖推定などを提供するこのサービスは、はじめ順調に軌道に乗るかと思われたが、一昨年、米国FDAの解析キット販売停止勧告により、その前途は一挙に視界不良となった。(当ブログ「イノベーションと規制」参照)。「もう23andMeは終わりかもね」とさえ言われたが、今回の「転進」は、同社にとって起死回生の新戦略になる可能性がある。 続きを読む

7年目の春

医療コンシェルジュ?

石神井公園では梅が咲きはじめ春はもうすぐ。早いもので年が明けたと思ったらもう2月も後半。ブログを書くのをサボっているうちに、時はどんどん流れていく。のみならず今月は、TOBYOが誕生してもう7年目である。7歳といえば、人間ならさしずめ小学校一年生というところか。

年末のエントリで、dimensionsを中心にTOBYOプロジェクトの振り返りをしておいたので、あらためてここで過去に目を向けることもないだろう。それよりもこれからのTOBYOプロジェクトを考えてみたい。

昨年は「がん闘病CHART」をリリースしたが、今後も新規コンテンツにチャレンジをしていくことになる。また現状インターフェースも、さらに使いやすいものにしていく必要があると考えている。ユーザーがほしい情報がもっと簡単に正確に抽出できるような、そんな仕組みを模索していかねばならない。 続きを読む

薬剤の違いを可視化する

ハーセプチン、タキソール、リュープリンの患者パーセプション(クリックすると拡大)

患者がウェブ上に公開している膨大な量の闘病体験ドキュメントをどのようにわかりやすく可視化するか。前回エントリではワードクラウドを使って、患者の言葉をグラフィカルに可視化してみた。同じワードクラウドを使って、今回は薬剤ごとに患者が述べた言葉から、それぞれの薬剤の「違い」を可視化してみよう。乳がん治療に使われるハーセプチン、タキソール、リュープリンの三剤について、まず結びつきの強い言葉を患者ドキュメントからテキストマイニングによって抽出し、三剤との関連性の強度を数値化する。そして、三剤に関する患者の言葉および関連性データからなるリストを作成し、それらの相互関係にもとづいてワードクラウドを出力する。

おおよそ、そんな手順にしたがって作成されたのが上図である。これを見れば、ハーセプチン、タキソール、リュープリンが、それを体験した患者の心のなかで、どんなふうにその「違い」をイメージされているか、患者の言葉を手がかりとして視覚的に捉えることが出来る。三剤について患者が述べた言葉を比較分析し、ハーセプチンに関して言われることが多かった特徴的な言葉を緑、タキソールの特徴的な言葉をオレンジ、リュープリンに特徴的な言葉を紫で表示した。今回抽出したのは名詞、サ変名詞、形容動詞、ナイ形容詞、副詞可能、動詞、形容詞、副詞の約300語で、患者パーセプションの大まかな傾向をつかむために、どちらかと言えばやや広範囲な抽出となった。三剤の「違い」をもっと明確にするために、今後、品詞選択を絞り込むことが必要だろう。

次に、乳がん治療薬三剤の「共通点」だが、これは患者パーセプションにおいてどのように捉えられているだろうか。次の図は、三剤に共通して患者が述べた言葉を100語抽出しワードクラウド化したものだ。これを見ると、とにかく「副作用」が患者の一番の関心事であることが一目でわかる。痛いほどわかる。主な言葉を拾ってみると「副作用。チェック。今日。言う。病院」などが目に飛び込んでくるが、それらからストーリーを想像するまでもなく、患者の三剤に共通する関心事が極めて直截に伝わってくる。

ハーセプチン、タキソール、リュープリンに対する患者の共通認識


今後、薬剤のみならず治療法、そして医療機関の比較などもワードクラウド化したい。患者パーセプションを直接可視化する方法として、今後さまざまなワードクラウド出力に取り組んでいくつもりだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.