石神井公園では梅が咲きはじめ春はもうすぐ。早いもので年が明けたと思ったらもう2月も後半。ブログを書くのをサボっているうちに、時はどんどん流れていく。のみならず今月は、TOBYOが誕生してもう7年目である。7歳といえば、人間ならさしずめ小学校一年生というところか。
年末のエントリで、dimensionsを中心にTOBYOプロジェクトの振り返りをしておいたので、あらためてここで過去に目を向けることもないだろう。それよりもこれからのTOBYOプロジェクトを考えてみたい。
昨年は「がん闘病CHART」をリリースしたが、今後も新規コンテンツにチャレンジをしていくことになる。また現状インターフェースも、さらに使いやすいものにしていく必要があると考えている。ユーザーがほしい情報がもっと簡単に正確に抽出できるような、そんな仕組みを模索していかねばならない。
たとえばiPhoneのSiriのようなインターフェースが、医療情報サービスにもこれから必要になるだろう。これまでの「検索エンジンでゴリゴリ検索する」みたいなスタイルではなく、ユーザーが音声で機械と対話することによって、たちどころに必要な医療情報を提示してくれるような、そんな「医療コンシェルジュ」の仕組みこそ医療情報サービスにフィットするのではないだろうか。ユーザーが自分の症状を音声入力すれば、つまり機械で一種の問診をすれば、想定される疾患名とその情報、対応する近隣医療機関情報と予約手配、あるいは当座の処置方法などを教えてくれるような医療コンシェルジュ・サービスがあればとても便利だろう。そして、それはもう夢物語ではなくなりつつある。
技術的には自然言語処理と機械学習あるいは人工知能、そして大規模症例DBやPHR、さらには身体センサーなどを連携させることによって、このような対話型「医療コンシェルジュ」を作り出すことは可能になってきている。現に、問診票を自然言語処理し機械学習で判別することで、該当病名を推定するシステムが開発されていると聞いた。これらのシステムは患者のみならず医師にも役立つはずだ。
従来、患者と医師をネットで結ぶサービスといえば、TelemedicineやQ&A掲示板などがあったが、これらは医師が存在しなければ成立しないものだった。医師という希少リソースに依存するということは、自ずからサービスに量的限界が存在するということであり、本来ネット的ではない。であれば機械で代替し、いつでも、どこでも、誰でも、気軽に利用でき、量的限界のない「コンシェルジュ」を作ったほうがよいだろう。厳密に言えば、機械による対話型医療コンシェルジュは、本当は医師を代替するものではない。そうではなくて、医療にかかわる知識情報を社会にあまねく伝達し、社会全体で利用するためのシステムなのだと思う。もちろんパーソナル対応や個別対応がキイになる。機械がユーザーの健康履歴全体を知っていることが前提となる。
そんなことを考えていたら、10年ほど前のあるプロジェクトの記憶が蘇ってきた。当時、ある大手家電メーカーのネット家電プロジェクトに参画していたが、その時取り組んでいたのが「生活コンシェルジュ」であった。ユーザーの生活全般にわたる質問に答えるコンシェルジュ・サービスをネット上に創りだそうという、かなり野心的なプランであったが、結局、当時の技術、リソース、インフラ等の限界もあり実現しなかった。あまりにも時期が早すぎたのかもしれない。
だがその後、Siriのようなサービスやディープラーニングを使った情報処理サービスが続々登場しているのを見ると、ようやく「医療コンシェルジュ」によるサービスが現実味を帯び始めてきたと思う。
だが医療がこのようなイノベーションのベネフィットをただちに享受するかといえば、そうとも言い切れないところもある。ここ10数年ほどのインターネットを中心とするイノベーションの対応に、最も遅れている分野が医療であることは、日本のみならず海外でも指摘されているところだ。
特に日本では、いまだに医療機関のアウトカムさえ十分には公表されていない。手術の失敗件数、診療科目別死亡率などがわからないのに、患者数や入院日数や手術件数だけで「病院ランキング」なるものが作られ、「データに基づく病院選択を!」というようなキャプションを目にするが、「いったいこの10数年間で何が変わったのか?何も変わっていないではないか」と暗澹たる思いが去来する。これら病院別患者数などは、病院の量的側面を計った指標ではあるが、病院の質的側面を表示する指標ではない。日本では、まだ病院選択の基礎データすら公開されていないのだ。10年たって、いまだに「患者数、手術数ランキング」が通用している社会って、いったい何だろう?
いくら技術やリソースが進化しても、肝心のデータが公開されず社会的にフローしなければ、患者は病院選択さえできないのだ。「TOBYOのこれからを語ろう」と考えていたのが、なんだか脱線してしまったようだが、今後も「患者体験に基づく医療評価」をTOBYOは目指していく。
三宅 啓 INITIATIVE INC.
「TOBYO」お誕生日おめでとうございます!