ショッピングセンター型患者SNS: Inspire

inspire

様々な試行錯誤が続けられている米国患者SNS市場だが、その中でもInspireはきわめてユニークなスタイルの患者SNSだ。Inspireは、患者支援団体をはじめさまざまな健康・保健団体に疾患SNSスペースを提供している。つまり、Inspireがいわば「大家」としてサイト全体を開発運営し、そこへ「テナント」として健康・保健団体が集まるという構造になっている。ショッピングセンターのデベロッパーとテナントの関係を想起すればよいだろう。

これはある意味で非常に賢いやり方だ。なぜなら、患者会など「テナント」側の会員がそのままInspireの新規会員になってくれることが見込まれ、新たにゼロから会員募集をする必要がないからだ。いわば「テナントが会員を連れてきてくれる」という仕組みになっているのだ。また、それぞれの団体は当該疾患についての専門的な知識・情報・経験を豊富に蓄積しているから、これら資産をそのまま疾患別コミュニティ・サービスに活かすことができる。おまけに有力テナント(著名な健康・保健団体)の知名度や信頼感は、サイト全体の社会的ステータスを上げることに寄与するだろう。また、それぞれのコミュニティの管理運用のほとんどは「テナント」に任せることになるから、デベロッパー側は管理運用負担を大幅に軽減できるわけだ。まさに一石四鳥だ。 続きを読む

ClevelandClinicのHealth2.0戦略

先週、MayoClinicのソーシャルメディア戦略のスライドを紹介したが、このほどMayoと並ぶ米国のトップ医療機関であるClevelandClinicのHealth2.0戦略スライド「Health 2.0は、どのように医療業務と医学研究を作り直すか」が公開された。なおこのスライドは、オランダで開催されたHealth2.0コンファレンス「Reshape 2009」で発表されたもの。

このスライドを見て、これまでWeb2.0テクノロジーの医療分野への応用を啓蒙的に語ることがこの種のプレゼン・スライドの主流であったのだが、それがより実践的な課題に落とし込まれてきていると感じた。米国やヨーロッパの医療機関では、ここ二三年の間にHealth2.0分野の実践経験が相当積み上げられてきているのではないかと思われる。このスライドでも、患者に医療機関が有力なソーシャルメディアサイトやその有効な使い方を教育することが、医療機関が提供する医療サービスの一環であることが、何の不自然さもなく語られている。 続きを読む

すべての闘病体験を可視化し検索可能にする

Orion_Ryusei

今朝、オリオン座流星群を見るべく早起きしたが、予想外に近所の街灯などが明るすぎ、あまりよく見えず残念。(写真は国立天文台の速報。観測地:山梨県鳴沢村、10月20日1時41分)

10月19日付ワシントンポストによれば、「SNSなど新しいタイプの(Health2.0スタイルの)サイト数は、四年前の35から現在約500近くまで増えてきている。」とのことである。また、「概ねこれらのサイトは、会員の医療情報を匿名化して企業に販売したり、治験リクルーティングを製薬メーカーのために行ったりして調査関連で収入を得ている。ほんのわずかのサイトが広告を販売しているが、大多数のサイトはまだ収益を上げていない」としている。

一方、Health2.0コミュニティのマシュー・ホルトなどは「今まさにわれわれが見ているのは、市場ライフサイクルにおける成長期の初期段階である」と述べている。対してここ日本では、まだHealth2.0サイトというもの自体がきわめて数少ない状態であり、市場ライフサイクルではようやく「導入期」のとば口についたばかりと言うべきか。

とはいえ、日本でも春からがん患者コミュニティやがん患者SNSが相次いでオープンされたりして、新しいチャレンジもいくつか散見される。これら日本の動きも、このブログでまとめて取り上げたいと考えている。 続きを読む

「Health2.0 2009」オープニングビデオ

Health 2.0 2009 Opening Video from Health 2.0 on Vimeo.

10月日6-7日、サンフランシスコでHealth2.0コンファレンスが開催された。一昨年秋のコンファレンスから数えて今年で三回目になるが、年々規模は大きくなっているようだ。イベントとしての規模が大きくなるのみならず、新しい医療ムーブメントとして、確実にその社会的影響力を増してきている。今年の劈頭を飾るキイノート・スピーチには、米国政府初代CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)に就任したAneesh Chopra氏が登場し話題になった。

参加型医学、e-Patients、医療情報をシェアする権利、データの流動性、消費者生成医療、アンプラットフォーム、m-Health等々。この二三年の間に、Health2.0ムーブメントとその周辺からは、次世代医療へ向け、斬新なコンセプトが次々に生み出され世界中に発信された。日本でも、このようなコンセプト生産性のある医療ムーブメントが生まれてほしい。いや、これは自分たちで作るしかないのだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

FoxBusinessで「keas」を語るアダム・ボズワース氏: keas

今月からベータ公開を開始した「keas」だが、やはり「あのアダム・ボズワースのプロジェクト」ということもあってか、米国では各方面の強い関心を集めている。その注目の人アダム・ボズワース氏が、FoxBusinessに登場し自らkeasを語っているので紹介しておきたい。また、「Adam Bosworth’s Weblog」でも、氏自身のkeasの説明「Learning from customers」 がポストされているのでご参照あれ。

「keas」自体はユーザー個人に特化した具体的な問題解決の提供という点で、従来にないユニークな医療サービスになっていると思う。おそらくこれに23andMeのような遺伝子解析サービスが付加されれば、最強のテーラーメイド医療サービスへ進化していくのではないか。

そしてまた、まったく新しいウェブ医療サービス領域を切り開きつつあるPatientsLikeMeなどとも、Keasはいずれどこかでクロスするような気がする。すでにこの春から、PatientsLikeMeと23andMeが、共同してパーキンソン病克服プロジェクトの取り組みを進めている。どうやら消費者向けウェブ医療サービスの今後の行方は、この三社を中心として展開していくような予感がする。

三宅 啓  INITIATIVE INC.