三宅 啓 の紹介

株式会社イニシアティブ 代表 ネット上のすべての闘病体験を可視化し検索可能にすることをめざしています。

変化し始めたPHR像について

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先月、RevolutionHealthは2月いっぱいでPHRサービスを停止すると発表した。このことは米国の医療ITコミュニティで少なからぬ波紋を呼んでおり、医療情報システムの中でもっとも注目されてきたPHRの将来を不安視する議論も出てきている。

だがRevolutionHealthのPHRは、ユーザーが自分の医療情報を手作業で入力するような「DIY型PHR」であり、結局、このようなモデルのPHRがワークしないことが実証されただけであるとの見方が多い。もともと、煩雑さがデメリットであることはわかっていたというわけだ。事実、RevolutionHealthでPHRを利用していたユーザー数は、わずか数百人に過ぎなかったと発表されている。

現在、個人医療情報を蓄積しているのはたとえば医療機関のEHRだが、GoogleHealthやHealthVaultなど新しいモデルのPHRはこれらからデータを入手し、ユーザーが自分で入力することはない。しかしGoogleHealthやHealthVaultなどのPHRが、今後順調に発展していくかどうかについても、最近これを疑問視する見方も出てきている。各種世論調査によれば、米国においてPHRは消費者にほとんど認知されておらず、またその必要性についても肯定的な意見は少ない。これらから、いわゆる「Direct-to-Consumer」型PHR市場の成立は容易ではなく、相当時間がかかるのではないかと見られはじめている。

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DTCからDFCへ

DFC

TOBYOプロジェクトは「闘病体験データの社会的活用についての考察」にも述べたように、「消費者、医療界、医療関連業界」の三方向へ向け、闘病体験データを提供していくことになるが、特に医療関連業界へ向けたデータおよびサービスについて「マーケティング」という一般的な言い方をしてきた。この点については、たとえば「患者体験マーケティング」とか「闘病マーケティング」など、一般的でないもっとTOBYOプロジェクトを体現するような言い方はないものかと、実はあれこれ思案していたのである。 続きを読む

入れ子構造のパターナリズム

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このブログを最初からざっと眺めてみると、当方の興味関心が「闘病記」から徐々に離れてきたことがお分かりいただけるだろう。というよりも、最初から「リアル「闘病記」本の代替物としてのウェブ闘病記」という見方に反撃するために、ウェブ上の闘病サイトの独自な立ち位置を強調していたわけだ。今日では、ブログをリアル日記帳の延長で捉える、あるいはその代替物と見るような人はいないだろう。同様に、ウェブ上に出現した闘病サイトを旧来の「闘病記」の延長で捉えてはならず、両者はほとんど別物であるとの認識を持つ必要があるだろう。

闘病サイトをじっと観察してみると、それが「闘病記」を書く場所ではなく、ネット上でさまざまな情報活動をするための基地という性格があることに気づくはずだ。闘病体験記録はその情報活動の一つの成果に過ぎず、それを闘病者の情報活動総体から分離することは本当はおかしなことだ。つまり、闘病者はいつのまにか自然発生的に、古く狭い「闘病記」というフレームに入りきらない情報活動とコミュニケーションをはじめているのであり、その現実を見ないことには何も始まらない。

そしてこのような闘病者の情報活動やコミュニケーション活動は、それらを「作品」として「鑑賞」するような観点とはまったく無縁であり、純粋に「自分にとって役立つ情報かどうか」によってのみ判断されている。つまり、闘病ユニバースに「作品と鑑賞」という尺度を持ち込むのは、まったくの時代錯誤なのだ。従って「作品」としての完成度ではなく、まったく別の尺度で闘病者の情報活動やコミュニケーション活動の成果は評価されるべきである。 続きを読む

Health2.0の新コンセプト「アンプラットフォーム」をめぐって

Unplatforms

昨年、Health2.0コミュニティから提起された考え方のうちで、もっとも重要なものは「データの流動性」(Data Liquidity)と「アンプラットフォーム」(Unplatforms)だったと思う。「データの流動性」についてはこのブログでも以前取り上げたが、単にEHRやEMRなど情報システムを導入しさえすれば医療の効率化が図れるのではなく、患者-医療機関、医療機関-医療機関などにおける情報フローとコミュニケーションを焦点化する方が、医療変革にとってより重要であるとの考え方を打ち出している。これは、従来の医療IT観を根本的に覆す大胆な問題提起だと思う。

もう一方の「アンプラットフォーム」だが、これについてはまとまったドキュメントがなく、その意味をはっきり捉えることができなかった。たまたま今月から始まったウェビナー「Health2.0ショー」で、マシュー・ホルトの”The Past and Future of Health 2.0″と題するプレゼンテーションを見ていたところ、このアンプラットフォームについての解説があった。それによれば「アンプラットフォーム」は下記の四つの場面を想定しているようだ。

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次世代医療についての考察

winter_2010

ウェブは患者の医療参加を促進する土台となるだろう。ブログやtwitterを使用して、患者は自らの医療体験や知恵を社会に向けて簡単に配信することができる。そして公開された事実や闘病ティップスに関するデータは、社会の各セクターで共有され、医療にフィードバックされ、最終的に医療を変えて行く・・・・。そのようなイメージを明確な社会的ビジョンとして具現化することが、今、必要になっていると思う。

だがこの日本においては、そのような「イメージ」を描くことがまず困難であるという現実がある。「インターネットによって医療を変える」という声は、すでに10年前から聞かれたのであるが、では具体的に何がどう変わるかまでは考察されてこなかったのである。せいぜい遠隔医療など通りいっぺんの技術構想で、従来医療の延長線上に「未来医療」が語られるのが関の山であり、本質的な医療変革を奈辺に求めるべきかについては誰も語ってこなかったのではないか。あるいは「情報の非対称性」というクリシェでお茶を濁し、そこから先へ議論が進むことはなかったのである。 続きを読む