一昨日(2月10日)の日経朝刊に、「乳がん患者、起業に動く。米国、闘病の経験、医療に生かせ」との記事が掲載されていた。
闘病生活の悩みから得たアイデアをきっかけに起業する乳がん患者の姿が米国で注目を集めている。「医療費を把握しやすいように」と開発したシステムや、着心地を改善した医療用衣類は「経験者ならでは」の工夫が施され好評だ。罹患率は日本の3倍以上の8人に1人。胸中は「不安を共有する別の患者に役立ちたい」という思いがにじむ。
(日経,08年2月10日)
コンピュータ・サイエンス学者のバヌー・オズデン氏は、2005年、乳がんが再発した直後、「Smart Medical Consumer」を起業した。その理由は、最初の乳がん闘病時に彼女が経験した、医療費出費管理や治療に関するペーパーワーク等雑務からくるフラストレーションを、他の闘病者が回避できるように手伝いたいと考えたからだ。
こうして誕生した「Smart Medical Consumer」は、次の三つの機能を闘病者に提供している。
- MySMC:医療に関する様々な出費を管理分析するツール
- MyDocs:医療に関する請求書や各種書類の記録整理
- Ask&Share:医療支払関連の疑問を専門家や体験者に質問
近年、乳がん患者の生存率は米国で上昇しており、全米で230万人の乳がん生存者が存在する。これら生存者の多くは、同病者が体験する厳しい試練を和らげ、治療において同病者だけが直面する問題を解決するために、何か役立つことにコミットしたいと考えているとのことである。そして、バヌー・オズデン氏のように、乳がん闘病者が自分の体験を活用して起業する事例が増加している。
昨年10月25日付「New York Times」では、乳がん患者の起業例として、ファッショナブルで機能的な乳がん患者向け衣料品を開発する「Lymphedivas」社、乳がん自己診断の啓蒙活動をおこなう非営利団体「Feel Your Body」(下図)などが紹介されている。また起業ではないが、自己の乳がん闘病体験を活かし、出版活動や講演活動に進出する例も紹介されている。
闘病者は自らの体験を記録しリレーするのみならず、体験をベースに新たな闘病サービスを創造する起業家へと進化し始めた。そう言えば、糖尿病の「アルファ闘病ブロガー」であるエミー・テンダリック氏は、医師とともに糖尿病の著書を出版し、各種コンファレンスで講演し、医療機器メーカーと糖尿病治療ツールまで開発するなど、社会的活動を華々しく展開している。
従来の「受動的で、元気のない病人」イメージを払拭する、「活動的で、創造的に社会や事業にコミットする闘病者」という、まったく新しい闘病者像が今後必要になるだろう。また、闘病者の可能性を支援するようなサービスも出現してくるかも知れない。われわれのTOBYO(闘病)も、このような新しい潮流と合流していきたい。
三宅 啓 INITIATIVE INC.