医療機関のソーシャル・メディア対応

PR2.0

米国ボストンのべス・イスラエル・ディーコネス医療センターといえば、世界でもトップレベルの医療機関として広く知られている。この医療センターのプレジデントにしてCEOであるポール・レビー氏は、医療ブロガーとしても著名な存在で、また医療機関にWeb2.0を導入することに熱心な医療者としても知られている。

ポール・レビー氏はこれまで院内Wikiの導入など、病院経営にWeb2.0の発想や技術を積極的に取り入れる実績を持つのだが、べス・イスラエル・ディーコネス医療センターがどの程度、「2.0」で言われるところの「ソーシャルメディア」に対応できているかを自己評価し、ブログで公開している。その評価リストは下記のとおり。

  1. 組織内で、誰かブログをしている者は既にいるか?(個人ブログを含む)
  2. 既に存在するブロガーのうち、仕事に関係する問題を扱うエントリーをポストする者は誰かいるか?
  3. 部下がミーティングで「wiki」という語について述べた時、上司はまじめにそれを聞いているか?
  4. あなたの組織は、考え方を聞くために顧客や利害関係者を会議に招待したことはあるか?
  5. あなたの組織はこれまで情報公開をしたことはあるか?。たとえば法務部の事前承認なしで、インタビュー、ニュース・リリース、または公的に何かを発言するとか。
  6. あなたの組織でウェブ担当部門は、良く権限委譲されているか?
  7. あなたの組織のウェブサイトは、RSSフィードを配信しているか?
  8. あなたの組織のコミュニケーション・チームは、巨大メディアの切り抜きよりもいっそう価値はあるか?
  9. あなたの組織は、組織内部から起こってくる起業家精神にあふれた行動を評価し報いているか?。
  10. あなたの組織のCレベル(CEO,CMO,COOなど)のリーダーは、Robert ScobleとBob Lutzの違いを理解しているか?
  11. あなたの組織のMARCOM(マーケティング&コミュニケーション)チームは、、過去二週間の間に少なくとも10ヵ所のブログから30エントリーを読んでいるか?。
  12. あなたのMARCOM(マーケティング&コミュニケーション)チームは、ポッドキャストの音声やビデオをダウンロードして見たり聞いたりしているか?

以上のリストに即して自己採点した結果、べス・イスラエル・ディーコネス医療センターは上記12項目のうち11項目を満たしているという。ちなみに採点結果の見方は、以下のようになっているようだ。

  • 「0-4」項目: あなたの組織は、まだ(ソーシャルメディア対応が)できていない
  • 「5-8」項目: あなたの組織は、社会の声を聞く準備ができている
  • 「8-12」項目: あなたの組織は、おそらく最もよくソーシャルメディア対応ができている。

さて、これらの評価リストを見まわしてみると、「ソーシャルメディアへの対応状況」というよりは、むしろ医療機関の広報体制チェックというほうが当たっているのではないか。特に上記リストのうち4項目と5項目は、まさに広報活動のチェック・ポイントそのものである。ただ、今日の広報において、ソーシャルメディア対応が中心的課題になってきていることは事実であろう。また、上記リストの10項目目だが、注釈を加えると、Robert ScobleはIT系のアルファブロガーであり、Bob Lutzは前ゼネラルモーターズ社CEOで経営者ブロガーとして有名であった。

ところで「広報」だが、終戦直後、米国から輸入された二つのビジネス技術概念があった。一つはマーケティングであり、いま一つが広報すなわちPR(Public Relations)であった。そして戦後60年の時間がたったが、マーケティングは広くあまねく産業界に浸透したのに対し、広報(PR)は結局正しく理解浸透されなかったのではないか、という声をよく聞く。たしかに、いまだに「PR」が「広告」の意味で誤用される場面を目撃することは多いのだ。

数年前、厚労省が主催した「インターネットと医療情報」に関する検討会でも、「病院のウェブサイトは、広告ではなく広報だから規制対象外だ」とする、奇妙奇天烈な論理が持ち出されたのを思い起こす。この場合、広告と広報は区別されているのだが、「では広報をどう定義するか」という肝心のポイントがネグられてしまったのである。

広報(PR)が、日本で正確に理解されてこなかったのは、実は「Public Relations」という言葉にぴったり対応する日本語が見つからなかった、という事情が大きいと考える。別の言い方をすると、「Public Relations」が「広報」と誤訳されてきたところが問題なのだ。とりわけ「Public」に対応する日本がそもそも無いのだから、誤訳せざるを得なかったということもあるに違いない。

ポール・レビー氏が自己採点した「ソーシャル・メディア」対応スコアは、実は「広報」対応スコアであった。ではソーシャルとパブリックは同一概念なのか?。これは、「似て非なるもの」と言わざるをえない。だが2.0以降のコミュニケーションを考えると、従来の「広報」や「広告」など慣れ親しんできたこれらの言葉を、きっと再定義する時期に来ているに違いないのだ。

Photo:”Free ebook: The Art and Science of Social Media and Community RelationsCommentsAdd Star” by b_d_solis

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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