リテールクリニックと消費者の医療ニーズ

ConsumerNeeds

今月初め、ウェルマートがリテールクリニックの本格的展開に乗り出すことを発表した。ウォルマートは全米各地の有力医療機関と提携し、共同ブランド(Co-Brand)方式で各ウォルマート・ショッピングセンター内にリテールクリニックを「出店」する。アトランタとダラスを皮切りとして、2010年までに全米400店を出店する予定。同時に、これらのリテールクリニック全店にEHRを導入し、ペーパーワークをなくし、どこからでも患者データにアクセスできるようにする計画である。

ウォルマートでは、これらのリテールクリニックの医療サービス価格の透明化や対応診療科目の周知徹底を図るとしている。想定されている通常診療価格は、40ドル-65ドル程度になるものと見られている。これは、先行するリテールクリニック・チェーン顧客の約55%が無保険者であるとの調査結果に基づくプライシングと説明されている。つまり、無保険者にも払いやすい価格帯が設定されているわけだ。また、米国でも患者の過度の大病院集中が問題となっているが、それを緩和する役割もこのリテールクリニック展開に期待されている。

ところで日本では一昨日、2月12日の閣議で「医師不足」が、ようやく事実認識として認められたようだが、ではこの問題をどう解決するかについての有効な手立ては講じられていないのである。不足を解決するのは基本的に「量的投入しかない」と、以前このブログでも指摘しておいたが、まして診療報酬の微々たる匙加減でこの「不足」を補えるわけはないだろう。

一方、医療者の中には、「コンビニ感覚で救急医療を利用する人が増えている」と患者側の医療需要抑制さえ必要だとする声もあるようだ。しかし、まさにリテールクリニックのような「コンビニ診療所」があれば、24時間365日で患者に対応できるから、病院や救急医療センターに患者が集中し勤務医が過酷な労働環境を強いられるという事態を緩和することも可能である。

今日、患者側の多様な医療ニーズに対応するために、多様な医療提供機関の存在が必要になっている。その選択肢が日本医療の場合少なすぎるのだ。たとえば他の流通部門を見れば、消費者のさまざまなニーズに合わせて、専門店からコンビニまでさまざまな業態が開発されている。だが、日本医療の場合、このような「業態開発」の余地は狭く、しかも浅い。せいぜい「医療モール」のようなものだけしか新しい展開はない。これは結局、消費者の選択の自由を抑圧し、競争を阻害し、結果として医療自体の「崩壊」さえ招いている。

さて先ほどの「コンビニ感覚で救急医療を利用する人が増えている」という医療者の発言を、今一度、ここで見なおしてみよう。この医療者はこの「コンビニ感覚」という言葉を、否定的なニュアンスで、また何か医療の精神とは反するような「異形」を指す言葉として使用している。だが、実は「コンビニ感覚」が消費者のニーズであるという現実に、この医療者は向き合おうとはしていないのだ。

われわれが医療を変革するためには、「コンビニ感覚」を否定するような発想に立つのではなく、それとは正反対に、「コンビニ感覚」を全面的に肯定する立場から医療を批判的に検討することになるはずだ。だから、もし「コンビニ感覚」の医療ニーズが存在するのなら、それに対応する受け皿を開発することが現実的な問題解決のありようとなる。また、「顧客ニーズ」を倫理的に批判するような医療者こそ、消費者視点から否定的に批判さるべき対象なのだ。そのような消費者プリンシプルを構想し、そこに立脚しなければ、どのような医療改革もありえるはずはない。

<参考>

<Source>
“Wal-Mart signs partnerships for first phase of Clinic at Wal-Mart”, Healthcare IT News, By Molly Merrill, Associate Editor,02/08/08

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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