昨日、ジョージ・マクマナスのReadWriteWebに、Health2.0のレビュー「Top Health 2.0 Web Apps」がポストされた。読んでみるとこれは、先月末「eDrugSearch.com」に掲出されたエントリー「Health2.0インタビュー」での、マシュー・ホルトとインドゥー・スバイヤへのインタビュー記事が元ネタになっているようだ。この二人は今さら紹介するまでもないが、昨秋、そして来月開催予定のHealth2.0コンファレンス主催者である。
ReadWriteWebレビューでは、一通り主だったHealth2.0サービスが紹介されているが、中でもSermoとCarolに注目し、この二つのHealth2.0サイト登場の意義を論じているのが目にとまった。Sermoだが、その後順調に成長しており、どうやら会員数5万人を超えたようである。文字通り、Health2.0の代表的成功事例となったのだが、医師SNSを超えたユニークなマネタイジングなど、最近はむしろそのビジネスモデルが各方面から注目されている。一方のCarolだが、以前、当ブログでも取り上げたように、医療制度そのものを変革するインパクトを持つ画期的ベンチャー企業として話題沸騰である。
Carolが出てきたとき、当方もHealth2.0の可能性の大きさを改めて認識させられた。「Consumer-Driven Healthcare」をそのままウェブサービスとして実現させると、一体、どんなサービスになるか?。この設問に、まっすぐ答えを出し、具体サービスへと実現させてみせた。とにかく、このことに素直に驚かされるのである。だが、Carolが作り出し提供するのは顧客の利便性だけではない、Carolはこれまで存在しなかった「ヘルスケア市場」を創造しようとしているのだ。そして「市場」を創造することによって、今まで非効率的で顧客志向でなかった医療界を根底的に変革しようとしているのだ。少なくとも、その可能性を体現しているように見える。
別の言い方をすると、Carolは市場機能を使って米国医療資源の効率配分を進めようとしている。こう言うと、特に「改革反動期」ともいうべきアポリアへ突入した今日の日本では、「市場原理主義」だの「新自由主義」だの、意味もないレッテル貼りの標的にされてしまうのだろうが、たとえば「Consumer-Driven」という医療観からすれば、消費者に開かれた透明な「市場」の存在は、いうまでもなく大前提となる。また、「米国医療の惨状」を市場原理批判の根拠とする人たちには皮肉なことに、米国には「医療市場」がこれまで存在しなかった事実を、Carolは逆説的に明示しているのだ。これまで商品単位と価格と品質が透明化されていなかった米国医療界では、消費者が本来の意味での「比較、選択の自由」を行使できる「医療市場」は存在しなかった。Carolはそこに着目し、市場を創造し、市場競争による医療の効率化を思いついたのだ。
さてインターネットは、とりわけWeb2.0以降のインターネットは、ユーザー個人をエンパワーする方向へ向かって進化している。これは個人としての消費者の力を強化する方向であり、また個人としての闘病者の力を強化する方向でもある。時間と空間の障害を越えて、インターネットは「商品の単位、価格、品質」についての情報を赤裸々に可視化するパワーを発揮しており、さらに今後一層、市場の透明化を進め競争を促進していくのは確実だろう。そして、これらこれらインターネットが提供するパワーを使って、医療市場をドライブする主体は、間違いなく消費者であり闘病者なのである。ジョージ・マクマナスのレビューを読みながら、Health2.0とはそのような背景認識を共有するムーブメントなのだと、強く思った。
三宅 啓 INITIATIVE INC.