米国医療を変革する革新的サービス、「Carol」登場!

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今朝の朝日新聞朝刊一面には「開業医再診料、引き下げ断念、医師会の反発受け、厚労省」との見出しのもとに、「医師会-与党」の強い抵抗にあい、開業医再診療引き下げを厚労省は断念したと報じられている。これは「限定された資源の有効配分」の問題に一般化できるだろうが、配分調整過程で「医師会」などという特定ギルド団体の意向が偏重されては、もとより「中立公正なる資源配分」などできるはずもない。そもそも価格形成に、実際に医療を消費する消費者の意向が反映されないことが問題なのである。

だが「消費者の意向を医療価格に反映する」とは言え、それは「××審議会」におざなりな「消費者代表」メンバーを配置することであろうはずもない。本当に消費者が価格形成に参加するということは、本来、オープンな「市場」において消費者が「買い手」としての選択権を自由に行使発揮できる状況を作ることになる。またそのための前提として、医療サービスについての価格と品質などが透明化されていなければならない。

ここ数年の米国における医療改革論議を見ていると、百花斉放状態がいくつかの論点に収斂されつつあるが、そのうちで有力なのが「Consumer-driven Healthcare」というコンセプトである。これは消費者にできるだけ医療サービスについての情報を与え、消費者の選択性を強化することによって、市場における医療機関の競争を促進し、そのことを通じて医療のコストを下げ品質を上げようとの考え方である。Health2.0というムーブメントも、この「Consumer-driven Healthcare」というコンセプトに立脚しているのは言うまでもない。

だが実際には、消費者の医療サービス選択の自由を阻み、医療機関同士の競争促進を阻むさまざまなファクターが、医療界という閉域には存在していた。一気呵成には行かないのである。ウェブ医療情報サービスをとって見ても、まず「病院・医師レーティング」のような医療評価から医療を可視化し、消費者の医療選択を支援する情報提供サービスなどから着手していく必要があった。しかしこれらのウェブ医療情報サービスは、「Consumer-driven Healthcare」を体現するほどの総合性とパワーを持ち得てはいなかったのである。

そしてようやく、今月になってまさに「Consumer-driven Healthcare」を体現し、医療改革を本格的に推進する可能性をもったHealth2.0サービスが登場した。ミネソタ州ミネアポリスからローンチした「Carol」は、「オンライン・ヘルスケア・マーケットプレース」とか「ヘルスケア・ショッピング・モール」などと説明されているが、はじめて消費者に医療サービスの比較、選択、そして購買までをワンストップで提供する画期的なサービスである。この「Carol」がいきなり全米から注目を浴びているのは、「Carol」が、米国消費者の医療購買の方法を根底から変えてしまう可能性を秘めているからである。

「Carol」のCEOトニー・ミラー氏は、もともと「飛行機のチケットがネットで買えるように、医療サービスも買えるようにならないものか。」という素朴な疑問から出発し「Carol」のアイデアを作って行った。

「たいていの業界では、サービス、価格そして品質についての情報は明確にされており、消費者がいつでも利用できるようになっている。しかし、医療だけは、これまでいつもずっとそうではなかったのだ。われわれは、消費者が望んでいることを実現できるようにキャロルを作ったんだ。それは医療を変えることだ。」
「キャロルは個人と家族を直接多数の医療機関に繋ぐ最初のサービスであり、消費者が医療から得る現実的な利益に立脚している。われわれは消費者が医療サービスを評価し、選択し、そして消費するやりかたを、消費者自身が完全にコントロールできるようにする。」
(Press Release,Minnesota Health Care Providers Join in Launch of First-Ever “Online Shopping Mall” for Health Care,Monday January 28)

まず、「Carol」はミネソタ州にある約350の医療機関に関する価格と品質の情報を提供している。さらに、各医療機関から医療サービスを治療サービス別にバンドル商品化した「ケア・パッケージ」を出品してもらい、あたかもスーパーマーケットで消費者が商品を手に取って比較し、選択し、購買するように、各医療機関の商品「ケア・パッケージ」を価格、内容、品質によって横並びに比較・選択・購買できるのである。

ここでは二つの「統合」が新しい消費者価値を創造している。

  • 医療サービスの「比較・選択・購買」機能を統合し、ワンストップで消費者に提供する
  • 医療機関の提供サービスを消費者が理解しやすいバンドル商品(ケア・パッケージ)へ統合する。

つまり、今まで消費者は医療だけは通常の「ショッピング」ができなかったのだが、「Carol」は医療機関をウェブ上の市場あるいはモールに集め、横並びに「店頭提示」し、それらを初めて通常ショッピング行動の対象として提供したのだ。次に「Carol」は、従来、専門的に細分化され、消費者にわかりにくかった医療サービス項目やコスト項目を、「ケア・パッケージ」という一まとまりのパッケージ商品にバンドリング化し標準化することで、価格、内容、品質を相互比較可能にしたのである。これらは、まさに「医療の流通革命」と呼んでもよい新機軸である。

Health2.0ムーブメントの中心的ビジョナリーとして有名なスコット・シュリーブは、「Carol」の革新性について次の四点を指摘している。

  1. 「Carol」は、特定の地域コミュニティ内の消費者のための中心的な医療マーケットプレースを真に創造している。そのマーケットプレースは、そこで消費者がオープンで透明性のあるやり方で医療サービス商品を見て回り、比較し、そして購買する中心的な場所として定義される。
  2. 「Carol」はさまざまな医療サービスへの支払いを、「ケア・パッケージ」と呼ばれる個々の「バンドル・オブ・ケア」へ組織化し統合した。これら「ケア・パッケージ」の創造ということだが、これはケア・パッケージ内部に含まれるサービスによって、異なる医療機関が共同してコスト効率の良い方法で連携し、サービス提供する、そんな優美なダンスパーティーのようなものである。
  3. 「ケア・パッケージ」を通じた医療サービスの購買や支払の当然の結果として、実際の医療提供も修正される。医療機関は今や、「ケア・パッケージ」の収支リスク予測の範囲でケアをコーディネイトし、組織化し、そして最良の結果を提供する動機を持つに至ったのだ。「ケア・パッケージ」の価格がアウトカムと結びつくようになった時、購買価値と医療提供価値は、かくのごとく一致することが自明となる。
  4. 発生ベースの医療サービス取引のためのマーケットプレースを創造することにより、私は「Carol」が今や新しいスタイルの「プロバイダー・ネットワーク」になると信じている。一人の消費者として見れば、「Carol」は好ましい医師たちからなる、私の新しいプロバイダー・ネットワークである。彼らは彼らのサービスを進んでバンドル化し、それらバンドル・サービスの提供方法を適切で違いの明確なイメージで店頭ディスプレイし、その価格を透明に提示する。これまでなぜ私は医療サービスを、誰か他から買うようなまねをしていたのだろう?。
    (“The New Network – Hello, Carol!”, CrossoverHealth, January 28, 2008)

相変わらずのスコット・シュリーブ医師の慧眼ぶりには畏敬の念を覚える。ここでは「Carol」が医療のコスト削減と品質向上にどのように強力な潜在パワーを備えているかについて、当の「Carol」当事者たちにも、まだはっきりとは見えていないビジョンまで示されている。

Health2.0は単なるウェブ医療情報サービスの総称でも、また医療をIT全般に拡散する夜郎自大の別称でもない。それはウェブのパワーを使い、消費者の手に医療を取り戻すムーブメントであり、消費者を軸に医療改革を進めるムーブメントである。これまでその「理屈」は様々に語られてきたが、ようやくその「実体」が「Carol」によってはじめて示されたことを素直に喜びたい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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