医療情報経済

consumer-Driven

NEJM(The New England Journal of Medicine)誌に、「医療情報経済の構造的転換」(ケネス・D・マンドル、アイザック・S・コハネ)と題する注目すべき論文が掲載された。まず「医療情報経済」(Health Information Economy)という言葉が新しい。だが、この言葉をGoogleで検索してみると、検索結果トップに「東京大学大学院 医療情報経済学・保健医療情報学」が表示される。アカデミズムでは、すでに確立した研究分野であるようだ。

それはともかくとして、今回発表された論文で、注目される部分をいくつか抜粋してみる。

巨大企業(Google、マクロソフト、他)は、医療情報マネジメントにおける不可欠な変革勢力になることを目指している。この変革が起きるメカニズムは、患者の個人コントロール下にある健康記録(PCHR)において、健康データ管理を可能にするコンピュータ・プラットフォームを通じて成立する。

ニューヨークのPresbyterian Hospitalは、すでに患者がEHRの医療情報をマイクロソフト社HealthVaultのPHRに転送することを認めている。もしも他の医療機関が、Presbyterian Hospitalのようなメジャー医療機関の後に続くとすれば、医療界の新参者である企業群であっても、結局のところ、どんな学術部門よりもはるかに巨大な情報レポジトリを構築し管理することになるかもしれない。

医療情報経済におけるこのような質的かつ量的な変化は、われわれのバイオメディカル研究体制に、充分には予測できないようなやり方で、ある種の影響を与えるだろう。このデータ・アグリゲーションの「コンシューマー・ドリブン」モデルは、医療情報エクスチェンジなど他の競合アプローチよりも、はるかに大きなデータ流動性を促進することになるだろう。

多くのコンシューマーはPCHRを使って、彼らの医療情報に注釈や補足を加えるだけでなく、やがて価値ある情報リソースを、つまり医療機関サイトを横断して彼らの医療情報を集めて作った統合コピーを、コントロールすることになるだろう。

これらを読むとこの論文の筆者たちが、PHRに代表されるような医療情報に関する「コンシューマー側へのパワーシフト」という今日の事態を、かなり正確に把握しているのがわかる。また、伝統的なアカデミズムを軸とする医療界のパワー構造が、Googleやマイクロソフトなど「新参者」が持ち込んだネットのテクノロジーによって、大きく揺らぎ始めていることを予見してもいる。

「コンシューマー・ドリブン」とか「バリュー・ドリブン」などという、従来あまり医療界では使われてこなかった言葉が、このような論文でも使われるようになってきた。経済やマーケティングの視点から医療を捉えなおす、そのような時代が本格的に始まったのだ。

Photo “The Consumer” by Tub Gurnard

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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