レストラン・レイティング会社が医師をレイティング

zagat

先ごろミシュランのレストラン・レイティング・ガイドブック「MICHELIN GUIDE東京 2008」(¥2,310)で、日本の料理店8店が3つ星を獲得したことが話題を呼んだ。ところでこのレストラン・レイティングの世界では、ミシュランのほかに「ZAGAT」という対抗馬が存在することは意外に知られていない。ZAGATはニューヨークで生まれ、そのガイドブック表紙の色から「ワインレッドのバイブル」と言われ、米国では広く知られるレストラン・レイティング・サービス会社である。また最近では、ミシュランと並ぶ世界的なレストラン・レイティング・ブランドの地位を獲得するまでになっており、日本でも「ザガットサーベイ東京のレストラン 2008」(¥1,680)が出版されているが、ミシュランに比べ売れ行きのほうはいまいちであるようだ。

ではミシュランとZAGATでは、どこがどう違うかといえば、知られているようにミシュランは専門の調査員がレストランを訪問して評価しているのに対し、ZAGATは一般消費者の投票ベースで評価している。つまりZAGATのほうが2.0的と言えるだろう。

さて、このZAGATが来春、米国で医師レイティング・サービスに進出することがこの秋発表され大きな注目を集めている。この医師レイティング・サービスを主宰するのは米国の大手医療保険会社であるWellpoint社で、ZAGATはこれまでレストラン・レイティングで培ってきたノウハウを活かし調査実施を担当する。

ZAGATはレストランを「フード、装飾、サービス、コスト」の四点で評価してきたが、医師レイティングでは「信頼感、コミュニケーション、アベイラビリティ、環境」の四点が調査ポイントになるようだ。このうち「アベイラビリティ」とはアクセスや受療の容易性のことだろう。まず、来年三月までにWellpoint加盟の被保険者百万人に利用できるようにするが、最終的には3500万人の被保険者すべてが利用できるようになる予定。

レイティングの対象となる四つのポイントをみると、これが決して患者が当該医師から受け取った「医療のクオリティ」を測定するものではないことは明瞭である。この点に関してWellpoint社は「この調査は患者のクレームデータに基づくものではない。単に患者の医師経験を反映したものであり、彼らが受け取った医療のクオリティを反映するものではない」と述べている。

このあたりにこのレイティングの方法的限界がありそうだ。世に溢れる「患者が選んだ・・・」などと銘打った患者視点による医療評価であるが、その方法的な厳密性とデータの有効性を問えば、決してその信頼性は一様ではない。むしろ専門的な統計調査の観点から見て、それらのほとんどはあまりにも稚拙にして雑駁すぎる。さらに言ってしまえば、現在、患者視点の医療評価で唯一有効で信頼できるものは、米国ピッカー研究所の患者体験調査しかないのが現実である。

米国の場合、ピッカーの調査メソッドを土台にした医療評価国家プロジェクト「HCAHPS」が進められている。だからこのような医師レイティングが補完データとして、生活者・患者に利用されても良いと思える。医療評価とは、決して単一視点の単独調査でカバーできるものではない。複眼視点、重層的調査レイヤー、時系列といったデータの多様性が必要であり、なおかつそれら全方位データを総合判定する医療評価基準が必要となるだろう。

その意味では、逆にこのWellpointとZAGATのチャレンジを過小評価してもいけないと思う。少なくとも「特定の医師についての患者経験」が可視化されることは評価しなければならない。「医療の透明性」の実現とは、医療を全方位から可視化することである。

日本の場合、「患者が選んだ・・・」などという統計的根拠の弱い、ずいぶんいいかげんなレイティングサイトが多すぎるような気がする。そしてその評価対象も、病院など医療機関がほとんどだ。ZAGATのように医師個人のレイティングサービスを、どこかやらないものか。

ちなみに、ZAGATが医師レイティングやりだすとなれば、次はミシュランがやるかもしれない。ミシュランの「三つ星ドクター」は話題になりそうだが・・・・・・。

<参照>
●”Zagat preps for ratings on doctors”,Chicagotribune.com, Julie Deardorff, November 4, 2007
●”WellPoint doctors to get Zagat ratings”, USA TODAY, Julie Appleby,November 20, 2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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