PHRとグーグルの「患者URL」

一昨日オンエアのNHKスペシャル「グーグル革命の衝撃」ですが、ブロゴスフィアでさまざまに論じられています。ま、良い意味でも悪い意味でも「NHKらしい番組」ではありました。「グーグルの広報活動」との指摘もありますが、これも日本では圧倒的にYahooの後塵を拝している以上、企業としては当然でしょう。さて、医療分野におけるグーグルの動向については前ポストで触れましたが、先月はじめ、12月7-8日に米国ワシントンDCで開催された全米カンファランス「Connecting Americans to Their Health Care」で、グーグルの技術部門部長アダム・ボスワース氏がキイノートスピーチをしています。

AdamBosworthアダム・ボスワース氏は、ボーランド社、マイクロソフト社、BEA社と渡り歩き、2004年にグーグルに入りました。インターネット・エクスプローラーなど彼が開発したソフトウエアは多数あります。またボスワース氏のシリコンバレーにおける立場については、梅田望夫氏もコメントしていますのでご参照あれ。

「われわれグーグルは着々と、医学的により適切な検索結果を出し、よりユーザーに役立つような能力を検索システムに組み込んでいっている。」と述べた後、ボスワース氏はGoogle Co-opについて触れています。

「われわれは、世界の情報を組織化し、世界中からアクセスできるようにするというミッションの一部として、Co-opを立ち上げた。この分野における小さなステップだが、このアイデアは熱意ある専門家の専門的知識を活用しようというもので、どの専門家をもっとも信頼するかを、消費者に教えてもらえるようにしてある。」

Co-opの具体的な説明の後、ボスワース氏は彼が個人的に経験した母の卵巣がんの体験談を紹介しながら、「すべての病人には”ヘルスURL”が必要だ」と主張します。 これは闘病者をはじめすべての医療関係者が参会するWeb上の会議室のようなもので、それぞれが持つ記録を見せ合い、検討し、検査データを参照しながら行動指針を協議する、といったことを可能にするものです。

彼の母は四年前に病に倒れましたが、卵巣がんであるとわかるまでに、なんと9ヶ月を要したそうです。その間、何度も通院し、たくさんの医師に会ったにもかかわらず、結局、「全体像を誰も母に提示してくれなかった。 総合的な助言をしてくれなかった。」と嘆いています。つまり、さまざまな情報が包括的に一箇所に集約されず、分散し、いたずらに患者側は困惑したと、彼は感じたのです。自分の症状についての正しい情報の欠如、関係者間での情報共有の欠如、そして複雑な医療保険支払い制度などによって、ただでさえ病魔に冒されているお母さんに、要らぬ恐れや不安を味わわせてしまったと後悔の念を述べています。

「もしも母が自分自身のURLを持ち、ストレージサービスのようなサポートがあれば、どれだけのことが改善されたか。」、「(それがなかったから)、母は本来あるよりも一層重篤になり、本来あるよりも一層早く死んでしまった。」とボスワースは言い、「われわれグーグルがこの問題を昨年一年間研究し、全国の指導的な医療者や団体に呼びかけたとき、確固たる基準をつくり情報を双方向に動かす方法を定義することはあまりにも困難であると人々は言った。」と明かしています。そして「それは違う!。かつて10年前に、世界中のプログラムがデータ共有する基準を作ろうといったとき、同じことを人々は言っていた。私達がXMLという基準を作ったときそれは実現された。HTMLだって同じだ。」、「今、医療の分野に必要とされているのは弁解ではない。われわれは医師の業務を管理したり、手術室にもうちょっとだけ画像を送るような、そんな”基準”を求めているのではない。病人とケアギバーズの手にコントロールを取り戻すことが必要なのだ。治療、薬物投与、検査、診療など情報を即座に患者に提供できない者がいるとすれば、彼らこそ時代遅れなのだ。」

米国ではすでに数年前から、全国民の医療健康情報をPHR(Personal Health Record:個人健康記録)というシステムに蓄積し、社会的に共有しようという国家構想が動き始めています。しかし、ボスワースが怒りをこめて嘆いているように、いまだに遅々として進まず、実現への道は遠いのです。PHRをめぐってその位置づけ、システムとデータの構造など、まだまだ百家争鳴の状態にあります。 国、行政がぐずぐずしているうちに、Googleがさっさとやってしまうかもしれません。実際にそれくらいの実力はあるでしょう。今後もPHRの動向に注目していきたいと考えています。

しかし日本では、米国よりももっと更に遅れているような・・・・・・・、感があります。
(Photo Credit: James Duncan Davidson/O’Reilly Media, Inc.)

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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