医療保険会社がPHRを拡充

myhealthmanager2

米国大手医療保険カイザーパーマネンテは今月6日、被保険者に無料提供してきたPHR「My Health Manager」を拡充ローンチしたと発表した。カイザーでは2005年から同PHRを提供してきたが、登録会員数はすでに160万人を越え、自称「世界で最もアクティブなPHR」としている。

「最近、個人医療記録市場への参入は殺到しているかに見える。(PHRには)どんな機能が必要かについて多数の定義が存在するが、その一般的な目標は、健康上の意思決定を可能にするために、消費者をPHI(Personal Health Information)でより良く情報装備することである」。(News Release, November 6, 2007,”Kaiser Permanente Puts Personal Health Record Front and Center”)

今回付加された「My Health Manager」の新しい機能は次のようなもの。

  • オンライン・アポイントメント
  • オンライン処方箋レフィル
  • 検査結果へのアクセス
  • 資格、給付金情報
  • 子供の予防接種情報
  • eメールで医療者とコミュニケーション

最後の「eメールで医療者とコミュニケーション」は、現在、毎月27万5千件のメッセージが登録会員からカイザーの医師、看護師に寄せられているが、カイザー側はこれを「消費者の電子診療に対する関心が増加していることを示している」と見ているようだ。

「会員の健康管理を容易にすることは、それが単に正しく必要なことであるのみならず、消費者が望んでいることなのです。」と「My Health Manager」の運用会社VPのアンナ-リサ・シルベスタ氏は言う。「消費者は彼らの健康を管理する便利な方法を求めているのです。」

この「便利な方法」とはPHRへのデータの自動入力のことである。「My Health Manager」はカイザー社のEHR「Kaiser Permanente HealthConnect」にダイレクトに接続されており、ユーザーがいちいち自分の手で医療情報を入力する手間を省いている。

消費者に、医師が見るのと同じデータへのアクセスを提供することと、医療機関と医療保険者の両方を双方向で繋ぐユニークなツールによって、「My Health Manager」は単にデータ要求機能だけを備えた標準的PHRよりはるかに優れている。(同上)

「あなたにあなた自身のデータを見せるだけのPHRではなく、カイザーパーマネンテの「My Health Manager」は会員に積極的な健康管理をすることを可能にしています。」とシルベスタ氏は言う。「私たちは皆、情報を持つことと、その情報に基づいて行動することは、全く違うことであるとよく分かっています」。

今回の拡充ローンチによって、カイザー社のPHR利用会員は870万人に達するとも言われている。今後予定されているGoogleHealthをはじめ、医療保険各社、医療機関、ウェブ医療サービス企業など入り乱れて、HR市場は異常な混雑ぶりを呈している。また一方では一昨日、医療電子データの標準開発機関であるHL7(Health Level Seven)が、データ相互運用のためのPHR機能モデルの承認採決を来月実施すると発表したが、PHR標準化への動きも活発になってきた。

これら米国PHRシーンの激動を見ていると、混沌の中から次第に次世代医療情報スキームが姿かたちを現わしてくるのがわかる。ただ以前の「1.0」時代と違うのは、単独の企業や団体によるロック・イン(囲い込み)はもはや通用しないということだ。その意味で今回のカイザー社のPHR拡充は、何か時代錯誤の感を禁じ得ない。この「My Health Manager」はEHRを元にして作られているようだが、どうも厳密にはPHRと呼べないのではないかとも思われる。

今後、ユーザーの手に医療情報利用の主導権が移るという事態に対し、医療保険や医療機関側はどのような情報サービスで対応すべきなのか。これにはまだ正解はなく、誰もが手探りで対応しているということなのだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>