医師レーティングに「医師の承認」は必要か?

ratemd

患者による医療機関や医師のレーティング(評価、格付け)サイトは日本でも徐々に増えてきているが、もともとレーティング好きのお国柄である米国では、老舗のHealthGradesをはじめとしてかなり以前から多数のサイトが存在してきた。患者が医療機関や医師を選択する際の手がかりとして、これら医療レーティングサービスに対する期待はインターネット初期から大きかったのだが、最近、問題も指摘され始めている。

これら医療レーティングサイトはレーティング対象も評価手法も様々であるが、最近問題になっているのが、匿名ユーザーが医師一人ひとりを評価したレーティングデータを集計公開するサイトである。このスタイルのサイトとして有名なのがRateMDs

このRateMDsは、全米10万人以上の医師について全部で33万件のレーティングデータを公開しており、データはすべて匿名ユーザーにより入力されている。RateMDの共同設立者であるジョン・スワプセインスキー氏によれば、すべての入力レーティングデータは個別に検討され、誹謗中傷の可能性があるものは削除される。たとえば、確たる証拠もなく「違法行為だ」と医師を非難するようなたぐいのものは削除される。これら削除件数は全データの約5%に達するという。

だが、匿名のしかも少数のデータで特定の医師を「評価」することに、医師側の反発は強い。しかも、医療過誤をめぐる訴訟が患者側から大量に起こされていること等も手伝い、一方的に断罪されがちな医師を支援するMedicalJusticeのような対抗支援サービス事業が立ち上がり始めた。

medijustice

MedicalJusticeサイトのトップページには「浅はかな訴訟から医師を断固保護する。抑止、初期介入、そして対抗訴訟の実行」と書かれている。MedicalJusticeの経営者であり脳神経外科医でもあるジェフ・シーガル氏は「個人の名誉が危険にさらされるような見解がレーティングサイトに匿名で公開され、さらにそれをコントロールできないのであれば、医師は自分が無防備だと感じるだろう。われわれの目的は情報フローのコントロール権を医師に取り戻すことにある」と述べている。

MedicalJusticeでは、年間625ドルから1800ドルの契約フィーで医師に対し様々な法的支援サービスを提供しているが、なかでも患者から勝手にレーティングされることを防ぐ対抗サービスを提供して話題になっている。これは診断時に「レーティング・パーミション契約」を患者と締結するもので、この契約によって、当該医師の承認がなければ患者は勝手にその医師をレーティングすることができなくなる。

たとえばこの「レーティング・パーミション契約」をすべての患者と結んでおけば、医師はRateMDsのような匿名レーティングサイトに自分のレーティングデータが掲出されても、「承認していないレーティングである」と申し入れ、RateMDsに全データを削除をさせることも可能だ。

対するRateMDs側も黙ってはいない。「もしも(レーティング・パーミション契約によって)現実に医師のレーティングが妨げられるようなことが起こるなら、徹底的に戦うことになるだろう」とジョン・スワプセインスキー氏は言う。

だが、診察現場において一般的に弱者の立場にある患者に「レーティング・パーミション契約」を提示するやりかたは、半ば強制的に契約締結を迫ることになるのではないかとの批判も強い。

日本では今年の春先に「全国ヤブ医者マップ」がYahooMapで公開され反響を呼んだが、しばらくして閉鎖された。クレームがついたのだろうと推測される。だがこのサイトへの反響の大きさは、生活者・患者側の医療機関評価情報に対するニーズの大きさを示すものであろう。医療機関を比較し選択するためのデータが、日本では圧倒的に少ない。

だが、なんでもいいからレーティングデータやヤブ医者情報などを出せばよいというわけでもないだろう。やはりデータの信頼性、客観性などが問題となる。評価データがたった数件しかないのにそれを集計することに意味はない。たとえ数値やグラフでもっともらしく見せても、そもそも基数が少ないものをどのように見せても統計的な意味はない。RateMDsのケースもこの問題を解決できていない。

そうなると定性データを集めるしかないのだが、ではこの定性データの信頼性をどのように担保できるか。われわれがTOBYOで考えているのは、闘病記のような量的にまとまった継続性のあるドキュメントの信頼性というものは、掲示板やコメント欄での数行の書き込みとはまるで水準が異なるのではないかということ。

TOBYOは、「闘病記集合体=闘病体験情報集合体」から特定の医療機関や医師の評価情報を切り出すことを目指している。それは従来の「レーティング」という概念には収まらない医療評価情報になると考えている。

Source:Doctors to Patients:”Don’t Slam Us Online Without Permission”, The Wall Street Journal, August 22, 2007
三宅 啓  INITIATIVE INC.


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