患者体験による医療評価: HealthcareScoop.com

HealthcareScoop

患者が患者体験を語り共有し、医療機関や医師を評価するサイト「HealthcareScoop.com」が、米国ミネソタ州からローンチされた。最近、米国では医療保険会社が医療機関のコストや品質を調査しウェブサイトで公開するケースが増えている。これらは医療の透明性を高め、患者の医療選択に資するという意味で歓迎されるべきことではある。今回ローンチしたHealthcareScoop.comも、実は大手医療保険会社であるブルークロス・ブルーシールド社の系列会社であるコンシューマー・アウェア社によって運営されている。だが、一般的なコストや品質データの公開ではなく、患者体験を公開し共有するというスタイルでは、このHealthcareScoop.comが、医療保険会社関係が手がける最初のサイトとなるようだ。

この手の患者体験共有サイトとしては、一昨年秋にオープンした英国のPatientOpinionがまずあげられるし、また、OrganizedWisdomの「ウイズダム・カード」というのもあった。では、これら患者体験を公開し共有するサイトにおける第一の難関は何かといえば、それはやはり患者体験を多数集めることである。同時に患者体験を公開するモチベーションをどのように作れるか、という問題でもある。PatientOpinionにせよOrganizedWisdomにせよ、どちらもその点で苦労しているように見える。

それでは、医療機関や医師に対するいわゆるレイティング・サイトと、HealthcareScoop.comのような患者体験共有サイトではどこがどう違うのだろうか?。同じく患者による医療評価でありながら、両者が決定的に違うところは「レーティング」の位置づけであろう。言うまでもなくレイティング・サイトでは、病院や医師に対するレイティングがメインであり、たいていこれらは「星四つ」とかいう具合に数値表現される。そして、コメント欄に感想を書き込むという順序になっている。それに対しHealthcareScoop.comでは、数値表現されるような定量的レイティングはなく、どのような体験をしたかを患者が文章で記録する。

このように一口に患者による医療評価といっても、「定量的なレイティング・サイト」対「定性的な患者体験サイト」と対比されるような差異があることがわかる。このような対比関係は、ユーザーが入力する際の容易性、そしてユーザーがデータ利用する際の利用価値の大きさに影響を与えるだろう。一般的に、「レイティングサイト」はデータ入力の容易性に優れ、データ利用時の価値は低い。逆に「患者体験サイト」はデータ入力の容易性では劣り、利用価値は高い。たとえば「星3つ」と直感的でスピーディーなデータ入力ができるレイティング・サイトに対し、自分の体験をストーリー化して相手にわかるように記述する必要のある患者体験サイトは、それだけユーザーに入力負荷を強いることになるだろう。だが、いざデータを利用する段になると、患者体験サイトの方が圧倒的に情報量が豊富なだけに利用価値は高い。

こう考えてみると、当方などはどちらかと言えば患者体験サイトの方が好ましく思えるのだ。一概にレイティングを否定するものではないのだが、平たく言って、患者体験データの方が他の患者の参考になることが多いように思えるのだ。また情報の信頼性をとってみても、レイティング・データは入力が簡単なだけに、却っていい加減な入力の可能性が高まることが考えられる。また、データ利用時にそのデータが信用できるものかどうかを判断する際、単なる数値データを見ただけでは判断できないはずだ。一方、ひとまとまりの文章に表現された患者体験データの場合、その文脈や言葉使いからその「体験」の信憑性は判読できるだろう。

われわれが開発しているTOBYOも、ウェブ闘病記をアグリゲートして患者体験を利用しやすくすることを目指しているが、闘病記自体がかなりの分量の文章の塊であるからこそ、その信頼性の判定は容易であると考えている。たとえば半年や一年もの長きにわたって、矛盾のない「作り話」を継続して創作すること自体が非常に苦痛を伴う困難であり、それゆえ虚偽は自ずからばれてしまうと考えている。

だが、結局、医療評価は全方位から総合的に見なければならないのだ。その中に、患者レイティングがあってもかまわないが、それだけでは偏った評価になってしまう。そうなると、さまざまなスタイルの医療評価データをアグリゲートして見せるというサービスが必要になってくるかも知れない。だが、これまでの医療評価論議で決定的に抜け落ちていたのは、生活者・患者などユーザーによる医療評価データの利用シーンを十分に検討することだったのではないだろうか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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