海外の動向1: 患者体験情報の共有をめざすオーガナイズド・ウイズダム

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インターネットが始まって以来10年とちょっと。医療分野のサービスにはさしたるイノベーションもなく、他の分野よりも大きく遅れをとっているといわれてきました。たしかに医療ポータル、病院検索、医療情報検索などのサイトはあるものの、新規性のあるアイデアで新しいサービス価値を作り出すような、そんなネットらしい医療サービスは生まれてきませんでした。

しかし、ようやく昨年ごろから、アメリカやイギリスでいくつかの新しいサービスが登場してきています。これらはいずれも、2005年に盛り上がり始めたWeb2.0のインパクトを受けているのです。 その中で、昨年夏に登場したのがニューヨークに本拠を置くオーガナイズド・ウイズダム。

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オーガナイズド・ウイズダムというブランドは、Web2.0の中で語られた「ウイズダム・オブ・クラウズ」(群集の叡智)から、やっぱりインスパイアされてネーミングされたのでしょう。また、上のスローガン「私たちの健康体験を共有しよう。一緒に私たちは他人を助けられる。一緒に私たちは私たち自身を助けられる。」からも、この事業が、患者をはじめ人々の病気や医療の体験共有に焦点を当てていることがわかります。これらから、事業コンセプト設計段階で2.0が相当意識されていたことがわかります。

さてオーガナイズド・ウイズダムは現在、三つのサービスを提供するサイトになっています。その第一は医療分野におけるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)です。日本にも医療者のSNSはありますが、こっちは生活者と医療者のSNSで、自分と同じ病気の人たちと体験や情報を共有し、医療者から助言を得るツールを提供しています。

第二に「ウイズダムカード」です。これは、ユーザーが病気や医療に関して自分の体験した情報をカードに書き込み、公開のうえ共同利用しようというものです。すでに6500以上のカードが公開されているようです。そして三番目は、このウイズダムカードを含め、医療者がチェックした医療情報の検索サービスです。

Googleのような汎用検索エンジンでは、検索結果に大量の「ゴミ」が混じってしまいます。医療情報だけを検索したい時、どうしても汎用検索エンジンではピタッとくる検索ができないのです。そこで考案されたのが、特定分野だけを検索対象とするバーティカル検索エンジン。医療分野では2005年から、いくつかのベンチャー企業が運用を開始しています。オーガナイズド・ウイズダムの場合は、医療コンテンツ業者から調達したデータと、上述のウイズダムカードが検索対象になっています。

このオーガナイズド・ウイズダムを率いるのはスティーブン・H・クレインで、彼は初期のインターネットから、ネット・プロモーション・サービスをはじめ、さまざまなビジネス経験を持っているネット起業家です。医療分野のエキスパートではありませんが、むしろ、医療以外の分野からの参入のほうが斬新な発想を持ち込めるのかもしれません。

「医療のSNS」が果たしてうまく成功するのか?。また、ウイズダムカードという闘病体験の集め方も、少し、ユーザーにとってハードルが高いような気もします。 しかし、従来にはない、まさにHealth2.0の先陣を切るこのオーガナイズド・ウイズダムに、大いに注目したいと思います。

三宅 啓   INITIATIVE INC.


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