闘病記の考察6: 闘病記から闘病サイトへ

以前、リアル闘病記とWeb闘病記を、「書籍 対 UGC」という図式で比較しました。その際、柳田邦男氏が書籍の闘病記を高く評価しながら、Web闘病記に対しては「個人的な体験に基づく中傷や即断が含まれている例が少なくない」と警戒を促すような発言をしていることに、UGC一般に対する、エスタブリッシュメント側に共通する嫌悪感を感じたわけです。

しかし、書籍版闘病記とWeb闘病記の差異は、「書籍 対 UGC」という 単純図式に収まらないほど大きいような気がします。書籍闘病記は、すでに結果が出てしまった過去、終わってしまった闘病体験のパッケージであり、静的に固定された情報であるのに対し、Web闘病記は、現在進行形の体験が動的に変化していくような、そんなダイナミックな情報活動であるように思えるのです。

闘病記を超えて

Web闘病記に盛り込まれてある情報は、闘病体験を記した通常の意味の闘病記はもちろんのこと、それ以外に、検査データ、検査写真、医療費明細、食事記録、薬物写真、病室写真、医学情報など、さまざまなデータが記録されているのです。そこには、闘病者が病気と闘う際に必要な情報を、細大漏らさずWeb上に、一箇所にまとめて記録しておこうという意図が見えます。つまり闘病記というよりも、闘病情報集積拠点と言ったほうが、闘病サイトの性格をBOOKより適切に表現できるのであり、闘病記はその中の一部のコンテンツを指すといったほうがよさそうです。

利己的な行為が利他的になる

これら記録され集積された闘病情報は、まず、サイトの主催者自身の闘病生活のために利用されます。次に、サイトを訪問する他の闘病者たちに共有され、役立つ情報になるのです。「自分のために集めた情報が、他人に共有されて役立つ」というところが、Web上の闘病サイトの大きな特徴になっているわけです。
それに、闘病サイトにあって書籍闘病記にないのは双方向のコミュニケーション機能です。メール、コメント、TB、掲示板など、闘病サイトはリアルタイムで他の闘病者とコミュニケーションするツールを備えています。このように見てくると、Web上に多数作られた闘病サイトは、書籍版闘病記のアナロジーとして存在するのではなく、それ自身の独自性を持ち、より一層ダイナミックで多機能な存在であるといえます。むしろ、書籍版闘病記と比較衡量することが適当ではないかもしれません。その意味では、これまで私たちは「Web闘病記」という言い方をしてきましたが、これも「闘病サイト」と言い直したほうが良いかもしれません。

いずれにせよ、このようにダイナミックに生成される闘病サイトの特徴を、最大限に活かしていくことがTOBYOの使命となります。

三宅 啓   INITIATIVE INC.


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