Google Health: 消費者の三つのコア・アビリティー

AdamBosworth_r

前回エントリーの続き。アメリカ医療情報科学協会(AMIA)カンファレンスで、Googleのアダム・ボスワース氏が発表した”Putting Health into the Patient’s Hands – Consumerism and Health Care”と題するスピーチでは、以下の三点が消費者が持つべきコア・アビリティーとして提起されている。

・発見
・行動
・コミュニティ

発見

まず「発見」であるが、これはほぼサーチ(検索)のことだと考えてよさそうだ。ここで検索対象となる情報は、文字通り闘病に必要なすべての医療情報である。まず医療機関、医師、ナーシングホーム、在宅看護、カイロプラクターなど、治療をしてくれる人、場所、機関についてのすべての情報が「発見」の対象となる。次に、適切で最新で一般に認められている治療、および推薦される他の選択肢などすべての治療についての情報が、容易に「発見」されなければならないとされる。

さらに、疾病管理や慢性疾患管理に関するオンライン情報。治療方針を裏付けるエビデンス情報。そして治療コストと保険に関する情報が「発見」の対象とされる。発見-サーチがウェブ医療サービスの基本になることは当然だろうが、ボスワース氏の発言を読むと、「一般的な医療情報」ではなくて、あくまで個人の個別状況に対応した医療情報が「発見」されるべきだという主張があることに気づく。この意味では、検索はパーソナルな特化型検索へと進化しなければならない。

行動

次に「行動」だが、これは三つのコア・アビリティーの中で一番はっきりしない。ボスワース氏がこの「行動」の説明で述べている中身は三つあると思う。一つは「個人医療情報を個人が全面的に管理する」という消費者のいわば情報管理行動であり、これに関連して二つめに、「医療機関などにあるすべての個人電子医療情報に対する、消費者の完全なアクセス権」を挙げている。三つめにオンライン化で可能となる省時間行動(オンライン診察予約、電子処方箋、オンライン診断等)、そしてダイエットや運動指導などサービス志向の「行動」も含まれるとされている。

コミュニティ

最後にコミュニティがあげられている。「あなたがもっと(病気について)学びたいとき、あなたが体験していることを体験している人々から、どのようにして学ぶことが可能となるか?」。ここで「あなたが体験していることを体験している人々」とは、同じ病気にかかっている人々のことである。

「そのコミュニティは不適切な商業的売込みから保護され、病状が似ている人と体験を共有し、サイトや医療者のリソース価値を評価し、リアルタイムで相互の質問に答えることさえも可能としなければならない」。

「彼ら(患者)は記録を比較したがっている。彼らは自分は一人ではないという慰めを求めている。彼らは他人がどのように問題に立ち向かっているかを知りたがっている。(中略)彼らの素性をさらすことは必要ではないが、興味深いことにしばしば、悲惨な状況の場合、人々は自分の素性をさらすことを望むのである。私は母がSloan Ketteringで化学療法のために待機している間、他人と記録を共有しているのを目にしたものだ。やがて彼らはお互いに、彼らの子供たち、彼らの人生、そしてその他を知るようになった」。

このように、「コミュニティ」についてのボスワース氏の説明を読むと、「患者体験の共有」ということがこの「コミュニティ」の核心的な役割とみなされていることがわかる。このあたりの認識は、「闘病体験の共有」をめざしてTOBYOを作りつつある我々とほとんど一致する。

このブログの初期段階で「闘病記の考察」をさまざまな角度から検討した。その中で、自分の日々の検査データの詳細から、手術写真や動画まで、実名で公開している闘病サイトがあると指摘したが、ボスワース氏も同様のことを自分のお母さんのがん体験から語っているのである。

「だが、何千万人もの人がオンラインで(自分と似たような病気の)人を探しているが、それはまだ非常に難しい問題であり、また最も(患者にとって)基本的なニーズであり、そして(他者の体験は)何が病気に効果があるかについて、疑いなくたくさんの発見を人々にもたらすものである。」(カッコ内は筆者が補記)

このような言葉は、むしろわれわれの「TOBYO」を語るものではないかと、わが目を疑った。TOBYO開発の原点にあるものは、このボスワース氏の言葉とほとんど符合するからである。

ウェブ上に氾濫する医療情報。だが闘病者は、一般的な表層の医療情報ではなく、自分と同じ病気の他の闘病者が何を具体的に体験したかを知りたがっている。他の闘病者が受けた治療法、医療機関、医師、そしてその結果を知りたがっている。ボスワース氏はこれら闘病者の体験共有の場として「コミュニティ」を想定しているが、われわれは「闘病記」=闘病ドキュメントの相互利用が活発に起き、社会的にフローする仕組みを作りたいと考えている。

だが、Google Healthが、この闘病体験共有の場としての「コミュニティ」をどのように具現化しようとしているのか。非常に興味深いところである。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>