個別化細分化する闘病情報ニーズ

shijuku_sky

夏から、闘病体験バーティカル検索エンジン「TOBYO事典」の改善&アップデートに取り組んできたが、先月リリースの予定がまたまた遅れてしまった。もうしばらく時間がかかりそうだ。今回の改善&アップデートでは、検索精度の向上と検索インデックス拡大を目指している。しかし、検索インデックスが増加するにつれ検索結果の量も増えるわけで、これは「目指す情報に最短で到達したい」というユーザーニーズに反することになる。海外のバーティカル検索エンジンでは、検索結果にフィルタリングオプションをつけるなど様々な工夫があるのだが、TOBYO事典も将来はこれらを導入していきたい。

当面の問題は、検索対象が増加すればするほど検索結果のSN比が下がり、ユーザーの求める情報にたどり着きにくくなることだ。たとえば乳がんの闘病者が、乳がん治療抗がん剤の副作用を調べたいと考えているとしよう。現状、「TOBYO事典」ではすべての検索インデックスを対象に検索を行っているから、乳がん以外の双極性障害や1型糖尿病の闘病ドキュメントまでが検索対象に含まれる。乳がん闘病者は、当然、乳がん闘病ドキュメントだけを検索したいはずなのに、現状では他の疾患の闘病ドキュメントにたまたま書かれた乳がん抗がん剤のページまで検索結果に表示されることになる。

もちろんTOBYO事典でも「乳がん 抗がん剤」と検索ワードを複数設定して情報を絞り込むことはできるのだが、「ノイズの排除」という点ではこれでも完全ではない。そこで現在検討しているのは、「病名ごとに別々の検索インデックスを作り、特定病名の闘病ドキュメントだけを検索する」という方法だ。これはたとえば「乳がん検索エンジン」、「関節リウマチ検索エンジン」、「白血病検索エンジン」など、いわば病名ごとに特化したバーティカル検索エンジンを複数作るようなものだ。もちろん、今まで通り全病名横断検索は「TOBYO事典」として残すが、病名ごとに独立した検索機能を提供することにより、ユーザーの個別化した特化型情報ニーズに一層応えていきたいと考えている。

もともとTOBYOを開発する段階で私たちが考えていたのは、「闘病者の求める闘病情報とは、闘病情報一般ではない」ということだった。「闘病情報の共有」という大きなスローガンは掲げてはいるが、現実にはユーザーの情報ニーズというものは、病名ごとに個別化細分化された具体的で実践的な情報に対するニーズである。個別「乳がん患者」というものは存在するが、「患者」一般というものの実体はないのである。

たとえば乳がん患者は双極性障害患者の闘病体験にあまり関心を持つことはないだろうし、またその闘病体験を活用することもできないだろう。だから、闘病体験のみならず広く医療情報というものを考えてみると、現実には個別に細分化した情報提供だけが意味を持つのであり、ユーザーの情報ニーズを充たすことができるのだ。闘病一般とか医療情報一般という情報提供の仕方は、ユーザーの情報ニーズを本質的に把握できていないのである。

また、「具体的かつ実践的な情報」であるからこそ、闘病上の問題解決に寄与できるのである。旧来の「闘病記」観はここを情緒的にあいまいにし、安易に「物語性」へ逃げ込んでいたのではないかと思う。闘病者が求めるのは「この病気を治したい」という一点であり、他人の「物語」を読んで「感動」する余裕などないのである。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


個別化細分化する闘病情報ニーズ” への1件のコメント

  1. たった今、わたしの疾患を検索してみました。
    確かにワードだけでは「ノイズ」が多いと思いますね。
    複数ワードを設定すると、かなり絞れる感じがするので、検索ワードの複数設定パターンのランキングが載せて検索のコツを指南する方向性もあるかな、と思ってみたり。考えれば考えるだけ出てきそうですね。

    病名で厄介なのは病名の頭に「〇〇性」とついてしまうことも挙げられると思います。ちなみに私の病名は「左下腿鬱滞性皮膚潰瘍」なのですが、「左下腿静脈性皮膚潰瘍」でも「左下腿難治性皮膚潰瘍」でもありますし、医師の書き方によって種類が出てきたりするのも、検索が定まらない原因なのかな、と感じることもあります。

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