医療マーケティングのデータインフラをめざして: TOBYOマーケティング・レイヤー

shinjuku_20091216

昨日エントリで見たように、TOBYOプロジェクトの全体イメージは三つのレイヤーで整理できる。そのうち第三レイヤーは今後公開することになるが、いろいろ考えた末「マーケティング・レイヤー」と名付けた。個人的には、なんだか少し気恥ずかしいネーミングである。

かつて「20世紀型のマーケティングは終わった」との思いを強く持ったのは、ちょうど10年前の1999年の年末頃。コンピュータの「2000年問題」なんかが取りざたされていた時期だが、もっぱら当方の関心は、繁栄を極めた20世紀の広告とマーケティングがはたして世紀を越えて存続できるものかどうかにあった。すでにCRMなども登場していたのだが、それらの発想には、何か古い尻尾を引きずっているところがあるような気がした。認知科学の応用なども提起されてはいたが、そんな小手先の対応で「マーケティングの終焉」を救うことはできないと思えた。

それから10年間、ある意味では意識的にマーケティングから離れようとしてきたのだが、ここへ来て再び「マーケティング」に出会うことになろうとは思ってもみなかった。だが、この10年間の大変化を経て、かつてのマーケティングをそのまま復古させるわけにはいかない。まったく違う「マーケティング」というものを考える必要があるだろう。他方、近年再び「ソーシャルマーケティング」あるいはCSRという言葉をあちこちで目にするようになった。これらの言葉は1970年代後半の米国で登場したのだが、今日、新しい時代の文脈で新しい意味を持って使われるようになった。

また一方では、ピッカー研究所の患者経験調査をモデルとして、日本でも患者視点の医療評価を立ち上げようと考えていた時期もあり、医療にマーケティングを持ち込むということを無意識のうちにやろうとしていたのかもしれない。

考えてみると「医療マーケティング」は、ここ10年の間に様々な論者によって提起され、書籍も少なくない点数が上梓されている。だが実態はどうかと言えば、日本医療とマーケティングはいまだに何の接点もないのである。ひところ「患者満足度調査」が流行った時期もあったが、それも大きな潮流に育つことなく、いつのまにかフェードアウトしていった。このような状況で一番損害を被っているのは消費者・闘病者である。

TOBYOプロジェクトのマーケティング・レイヤーは「リサーチ&コミュニケーション」と定義しているが、大量のデータに基づく新しい調査研究(医療評価)と闘病サイト発の新しいコミュニケーションの二つを実現したい。特に「リサーチ」では、闘病ユニバースに蓄積された闘病体験ドキュメントの可視化と定量化を目指す。現在、TOBYOには約300万ページの検索インデックスがある。データは多ければ多いほどよいが、現状でも一応テキスト解析を行うための分量には達していると見ている。これによって今まで目に見えなかった闘病体験や感想の定量化をはかり、マーケティングデータとして、医療機関の改善や製薬・機器企業の新製品開発などに活かしてもらいたい。

従来の一般ブログリサーチ・サービスと比べると、TOBYOのデータソースは闘病サイトに限定しており、スパムサイトや営業サイト、それに闘病に無関係なサイトの混入率は極めて低い。さらにメタデータを付して闘病サイトを分類整理しているから、個々のサイトがどんなサイトであるかは予め把握できている。つまり定性データではあるが、統計処理向けに整理されたデータになっている。

このような優位性をいかして、日本初の闘病体験特化型リサーチサービスをリリースすることになる。従来、「医療マーケティング」の理論は提起されていたかもしれないが、実践的にマーケティングを展開するための基礎となる消費者データは極めて少なかった。TOBYOのリサーチ部門は、これまでにない規模の多様な消費者・闘病者データを、これまでにない方法で医療分野に提供し、日本の医療マーケティングのデータインフラとなることを目指している。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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