英国CHIの遺産

HC

昨日(7月15日)の朝日新聞夕刊を食卓でぼんやり見ていると、「変わる英国医療。押し寄せる市場化の波2」という記事が目にとまった。「公的機関が満足度調査」という見出しがついたその記事は、保険医療委員会(HC)が実施している「患者満足度調査」を紹介し、英国政府の医療改革が、患者による病院選択の拡大などを通じて、医療の市場化を促進するものと報告されている。

HC(保険医療委員会)といえば、その前身はCHI(Commission for Healthcare Improvement)であり、全英の全病院を「患者経験調査」によってレーティングするという画期的なプロジェクトを実施しており、実は当方も数年前に注目していたことがあった。朝日の記事では「患者満足度調査」としているが、これは明らかに間違いであり、正しくは「患者経験調査」とすべきだ。原文「Patient Experience Survey」を、なぜ「患者満足度調査」とわざわざ誤訳したのだろうか。まぁ、そんなことはどうでもよいが、この「患者経験調査」はこのブログでも何回か登場した、あのピッカー研究所が開発した調査メソッドと同じものである。英国でCHIが先行し実績を積んだあとに、米国ではHCAHPSが国家プロジェクトとして遅まきながら実施されたのである。

われわれは2003年ごろ、CHIのピッカー・メソッドに基づく調査アルゴリズムを分析研究していたのだが、当時、日本では東北大学を中心とする研究プロジェクト「NPD」が患者経験調査のテスト運用に取り組んでいた。われわれはCHIに学んだ研究成果を「PSI」という調査パッケージで商品化する計画を持っていたが、結局、これは断念した。NPDはテスト調査を実施しレポートも発表していたが、その後、どのような取り組みがされたのだろうか。定かではない。

一方、米国のHCAHPSは、その後の紆余曲折を経て、ようやくその調査結果が一般公開されるところまで来ている。「同一尺度による客観的評価」というキャッチフレーズが売り物のHCAHPSだったが、これも英国と同じく全米の全病院が対象となるから、「医療の透明性と開放性」の推進に大きく寄与することが期待されている。また、これらの公開データを使った、新たなレーティング・サービスも市場に多数出てくるだろう。

思えば1980年代の半ばに、ボストンでひっそりと設立されたピッカー研究所の地味な調査理論が、のちに世界の医療を大きく変える重要な基礎理論となったのである。だがしかし、これらの「透明性と開放性」を求める世界の医療変革の動きから、日本医療は大きく取り残されてしまったかのように見える。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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