海外の動向5:患者の意見を集める Patient Opinion

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Patient Opinion はイギリスで昨年1月から開始された、患者体験や医療機関に対する意見を集めるサイトです。イギリスではほとんどの病院が国営トラストであるという事情もあり、病院評価調査やその情報開示を早くから進めてきました。特にCHI(Commission for Health Improvement 現在はHealthcare Commission)が中心となって毎年実施してきた患者体験調査に基づく病院評価は、米国ピッカー研究所が提唱した調査手法を使い、各病院を星四つの総合レーティングで評価するなど実績を上げていました。

ソーシャル・エンタープライズ

Patient Opinionは英国シェフィールドの開業医ポール・ホジキンが始めたプロジェクトです。ホジキンは「患者の知恵や洞察をNHS(英国国民健康保険)のために活用できないものだろうか」と考えていましたが、そのためには旧来の大規模な調査を実施しなければならなかったのです。しかも問題は、そのような調査を実施しても、その結果がうまく活かせないことでした。ある意味では、ホジキンは上述のCHI調査に対し、冷ややかな目で見ていたのかもしれません。

結局、彼が思いついたのは、インターネットでたくさんの患者の意見を集め、患者体験を共有し、患者支援に利用すればどうだろうというアイデアでした。さらにそれを運営する企業体は、いろいろな利害関係から独立性を保持するために、ノン・プロフィットの「ソーシャル・エンタープライズ」(社会的企業体)を目指そうと考えたのです。しかし「ソーシャル・エンタープライズ」とはいえ、やはり収入がなければ存続できません。

ビジネスモデル

Patient Opinionのビジネスモデルは、患者から集めた病院体験や意見をレポートにまとめ、その定期購読料を病院から受け取るというものです。病院にとってこれら患者情報は、自病院の治療サービスが、患者からどのように受けとめられたかを検証する貴重な情報となります。これらは今後のサービス改善のために活かされるわけであり、そのことが医療の効率化を生み出し、最終的にNHSに寄与するというわけです。

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患者体験を集める上での課題

このように、すでに英国では患者経験調査による病院評価活動実績がありましたが、Webでさらに広く患者体験情報を集めようとの発想の元に、Patient Opinionはスタートしました。「患者体験の共有」という意味では、この前ご紹介した米国Organaized Wisdomと共通するのですが、今後、このような「患者体験収集-共有型」というか、もしくは「Experience Driven」型とでも呼べる医療情報サービスは、ますます増えるのではないでしょうか。

ただ、このようなスタイルの医療情報サービスは問題も抱えています。それはなんといっても、患者体験を集める、しかも一定のまとまった量以上を集めることがそんなに容易ではないからです。Organized Wisdomの場合、「WisdomCard」に登録ユーザーが自分の体験を書くことになっていますが、まだ集まった数は公称6500程度です。Patient Opinionでは全容は発表していませんが、昨年1月スタートから6月までに2000の患者体験情報が集まったとのことです。

やはりユーザーに、一からこと改めて、自発的に自分の体験を記録提出させるというのは、非常にハードルが高いといえます。いわゆるUGC(ユーザー生成コンテンツ)は、もちろん、まずユーザーの自発性があって生み出されるものですが、その自発性を引き出すプロセスとモチベーションを、よく洞察する必要はあるでしょう。何らかの情報を新たに作成してもらい、提出してもらうためには、インセンティブを用意するとか、何らかの満足を得られる仕組みが必要です。そこが、これらの体験収集-共有型サービスの乗り越えなければならない難所だと思います。

三宅 啓   INITIATIVE INC.


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