闘病記からPGM(患者生成メディア:Patient Generated Media)へ

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PGM (患者生成メディア:Patient Generated Media)
これまでこのブログでは闘病記の考察から始め、さらに広く医療IT化やWeb医療サービス、そして医療制度とその改革の問題までを論考してきた。闘病記は、以前の書籍版闘病記が近年ウェブ闘病記へと進化し、さらに日記形式という闘病記の原型を超えて、「闘病サイト」とでも言うべき情報拠点に変わってきていることを確認した。

闘病記は今日、単なる「日記」ではなく、闘病情報を集積し配信する「闘病メディア」であり、Web2.0の文脈に即して言うとUGC、UGMあるいはソーシャルメディアだといえる。さらにそれが「患者が生成するコンテンツであり、メディアである」という意味では、PGC(Patient Generated Contents)あるいはPGM(患者生成メディア:Patient Generated Media)と表現すべきかもしれない。

それではこのPGM(患者生成メディア、闘病サイト)は、現下の医療IT化やHealth2.0と総称され、さまざまに登場してきているWeb医療サービスなどを背景として、どのように位置づけられ、どのような意味を持っているのだろうか。このことはまたこのブログのテーマでもあるのだが、今後当分、変化する医療シーンにおけるPGM・闘病記の立ち位置を探って行きたいと考えている。

パワーシフト: 国家・医療機関 → 闘病者

PGM(患者生成メディア、闘病サイト)は、歴史上、患者個人が初めて持った自分自身のためのメディアである。いうまでもなく患者とは病を負った存在であり、ともすれば身体的あるいは精神的に活動を制限された存在である。生活は病室や自室など特定の場所に限定されているかも知れず、コミュニケーション、学習、表現など情報活動を制限されている場合も多い。

だが、PGMによって患者は以上のようなさまざまな活動制限の頚木をとっぱらって、主体的、能動的に学習しコミュニケーションする可能性を手にしたのである。今日、欧米の医療改革のキイワードは「患者のエンパワーメント」である。国家や医療機関が患者を「コマンド&コントロール」(命令と統制)するのではなく、個人としての患者にできるだけ情報、選択肢を与え、意思決定力を強化していこうとしているのだ。この意味で、PGMはこの「患者のエンパワーメント」の方向性に合致するだろう。

患者をはじめ闘病者がまず最初に直面するのは、闘病対象となる病気について学習することだろう。その学習環境としてウェブほど最適なものはない。必要なコストは安く、知りたい情報は無限にあるといって良い。単にネットサーフィンするのみならず、RSSリーダーでマークした最新医療情報をチェックし、重要なページをソーシャル・ブックマークし、タグを付け、思いついたことをブログに書く。このような「探す-読む-書く」という一連のサイクルを通じて学習は効率化され、また学習過程での他者とのコミュニケーションは、闘病に必要な学習を一層楽しく効果的なものにするだろう。

Web2.0が「国家・組織→個人」へというパワーシフトをもたらしたとすれば、Health2.0は同様に「国家・医療機関→闘病者」というパワーシフトをもたらすだろう。これまで医療分野でのウェブ利用において、国家・大学・医療機関・企業などが主体と目され、個人はそのエンドで単に情報を受け取り唯々諾々と消費するものという暗黙の図式が存在した。だがPGMはこのような図式を超え、ウェブをもっと効率的で役に立つ闘病学習環境に変える可能性を持っている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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