20世紀型マーケティングの終焉と医療

legacy

HealthCamp2に関するエントリーを書いていて、PRM Network関連でCRMのことに少し触れておいた。当方にとってCRMという略語自体が、何か懐かしく、また何か遠い過去のくすぐったいような思い出を喚起する。といっては少し大げさか。しかし、ことほどさように、当方にとって、この言葉はすっかり過去のものとなってしまったことだけは間違いない。

CRM、データマイニング

かつて90年代末ごろCRMが登場してきたときには、「究極のマーケティングツールがとうとう出てきたか」というような印象を持っていた。思えば70年代中頃あたりから始まった企業における情報革命は、大量顧客情報をいかに安く短時間にさばき管理するかを、その後ずっと継続して目指してきたのだと思う。そして、デモグラフィック、購買ヒストリーなど顧客データを管理し、顧客属性と行動を一つ一つ可視化していったのである。

そして90年代の後半には「ダンウンサイジング」という名のチープ革命もあり、とうとう顧客一人ひとりを管理するCRMシステムが現実のものとなった。「いかに顧客を可視化するか」がおおかた実現された後は、「いかに顧客を選別するか」が焦点となり、顧客の生涯価値をはじきだし顧客をレーティングしたのである。そしていろいろなCRMマーケティング戦略が提唱された。

またこれらCRMシステムの成立と同時に、一方にはデータマイニングという技法が出てきた。これはCRMで蓄積された顧客データを統計処理して、予測できない法則性を抽出する技法である。これを使って、流通における有名なマーケット・バスケット法などいろいろな手法が開発されたのである。

転換点としてのWeb2.0

だがしかし、その後当方はマーケティング実務の現場から離れ、これらCRMとはとんと無縁となったのである。そして、今にして思えばやはりWeb2.0が転換点だったのであろう。マーケティングは、2.0以前と以降ではまるで変わってしまったのである。そしてCRMシステムなどを動かしてマーケティングを行うような発想様式にも、あっさりとピリオドが打たれてしまったのである。

これは一言、「コマンド&コントロールのマーケティングが終わった」と言えば済む話であろう。つまり、一望監視システムを夢想し、ついにCRMシステムまで到達した20世紀のマーケティングが終わったということである。ついでに言えば今日に至るも、いまだにマーケティング・プロパーからこの認識が出てきていないことが不思議である。だが実情はこれを認めてしまうと、これまでの広告、広報、販促、製品計画などすべてが瓦解してしまうので、その影響の大きさに怯えて誰もおおっぴらに言えないのである。

だが20世紀の大衆消費社会を貫いたマーケティングは、その巨大なイナーシャゆえに、実体は崩壊しているにもかかわらず、そのスピリットだけはまだ今世紀のさまざまな場所に亡霊として浮遊している。たとえばEHRは、その亡霊スピリットとして医療業界に浮遊しているのである。あるいはそれは、CRMのDNAを受け継ぐものと言うべきかも知れない。

EHR=CRM

EHRは医療における患者一望監視システムであり、そのデータは所有者の患者・生活者側にではなく、国家、医療機関、保険組合の側に帰属するのである。そしてこれはCRM直系の発想であり、また、データを匿名化し統計処理を施せばDM(ディジーズ・マネジメント)という名のデータマイニングが姿を見せることになる。

Web2.0で20世紀型マーケティングは終わった。同様にHealth2.0は、20世紀型マーケティングの亡霊が跋扈する医療業界を革新するベクトルを、はじめから具えたムーブメントなのだと思う。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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