医療とロングテール

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先週サンディエゴで開催されたHealth2.0春季コンファレンス。そのラスト・リアクター・パネルの掉尾を飾ったのは、Health2.0理論家として有名になったスコット・シュリーブ氏の「The Long Tail of Health Care」と題する総括スピーチであった。言うまでもなく「ロングテール」とは、「ワイアード」のクリス・アンダーソン氏が2004年に発表したWeb2.0時代のビジネスコンセプトである。

スコット・シュリーブ氏は、昨年来、米国で「次世代医師」と話題になっているジェイ・パーキンソン医師を取り上げ、「Web2.0ツールを使用した次世代医療」について触れたのち次のように述べている。

「私は、パーソナライズド・テクノロジーのこの爆発ぶり、そしていかに大きな機会が「医療のロングテール」サービス提供に存在するかに、打ちのめされたのだ。そしてその「ロングテール」は、まだ集められていない、まだ分析されていない、そしてまだ報告もされていない、そんなニッチなサービスを求めているニッチな患者たちからなる膨大なる多数派なのだ。これらのニッチ・サービスは、二つのHealth2.0コンファレンスで証明されたように、医療消費者体験をパーソナライズするためにテクノロジーを用いる最初の試みである。そしてそれらは、消費者がどこにいようと、彼らが接触したい方法で、彼らが理解できる言葉で話す医師と会うことを可能にし、ユニークな価値を提供するのだ」。

このようにスコット・シュリーブは、従来、可視化しにくかった市場のニッチな医療ニーズを技術の力で可視化し、パーソナライズ医療として個別化し選択性を強める消費者に提供することがHealth2.0であると、ロングテール理論を援用して説明したのであった。なるほど、従来の医療改革論から始まるHealth2.0定義を、もっとWeb2.0寄りの観点から再定義しなおしたということだと思う。

Web2.0の観点から医療を捉えなおすということでは、昨日エントリで取り上げたMedicine2.0のほうがより明確なのだが、この二つのムーブメントの行方が心配であった。対立や分裂など、けちな党派根性に陥ることになれば最悪だと思ったのだ。しかし、どうやらこれは杞憂であったようだ。

今日、偶然、しばらくぶりにHealth2.0のWikiサイトを見たのだが、そのトップページにはなんと「Defining Health 2.0 / Medicine 2.0」とあるではないか。スコット・シュリーブのHealth2.0定義と、昨日のエントリにも書いたギュンター・アイゼンバック準教授(トロント大学)によるMedicine2.0定義が、仲良く併記されている。これには驚いた。まず両陣営の論争・対立が起きるだろうと見ていたのだが、それどころか両陣営は、どうやら次世代医療をめざす協調関係を作っていこうという戦略らしい。まずは両者のコラボレーションに乾杯!。アイゼンバックの活動スピードの速さには驚嘆させられる。両者のジョイントによって、医療をめぐる「2.0」ムーブメントはますますパワフルになるだろう。

だが、日本では?。今のところ日本の医療界にはどこにも「2.0」はない。それでも、いくつかその萌芽は出てきているように感じる。

三宅 啓  INITIATIVE INC.



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