闘病記とプライバシー

Health2.0Booklet

先週、サンディエゴで開催されたHealth2.0の春季コンファレンスは、350社の企業をはじめ消費者代表や研究機関を集め、昨秋コンファレンスに続いて盛り上がりを見せたようだ。多数のコンファレンス・レビューがブロゴスフィアにアップされているが、ここのところ当方はTOBYOの闘病記採録にかかりっきりだったので、これから徐々に目を通していくつもりだ。上の写真は、そのコンファレンスでScott Danielsonという映画制作者が発表したブックレットの一部。

ざっとレビューを見渡して気になったのは、当初このコンファレンスの議題には入っていなかった「プライバシー問題」が急遽取り上げられたという点だ。GoogleHealthの発表と前後して、にわかに「PHRとプライバシー問題」をめぐる議論が巻き起こってきた。また、この当方ブログで取り上げたGoogleHealthプレゼンについて、スペインのDr Bonis氏からTBが張られたが、これもPHRのプライバシー不安を警告するものである。

だが、ウェブ上の闘病記を見て回って思ったのだが、もしもプライバシーということを絶対視するならば、そもそもウェブ闘病記というジャンルは存在しなかっただろう。ウェブ上の闘病記はたいてい匿名で書かれてはいるものの、病状、医療機関、薬剤、検査データ、患部写真、医療費など、克明かつ詳細に個人プライバシーに関わる事実が公開されている。個人を特定できる可能性も大きい。これらを見ていると、特に医療分野で声高にプライバシー擁護が主張される一方で、それとは逆の闘病者行動が現実に存在して世の中の役に立っているという、この「矛盾感」に戸惑ってしまうのだ。

われわれのTOBYOは、「闘病体験の共有」のためのツールを目指している。そして「闘病体験の共有」とは、まず闘病者が自己の体験をできる限り詳しく公開しなければ始まらない。つまり「体験共有」と「プライバシー絶対論」とは本来両立しがたいのだ。このように考えると、新しいプライバシー観のようなものが必要になっていると考えざるを得ない。「インターネットと医療」ということでは、従来から硬直した「プライバシー&セキュリティ」論というものが存在した。米国のデボラ・ピール氏率いるプライバシー・フォーラムの「プライバシー基準を作ってPHR認証制度をつくるべき」という主張なども、これら従来の「プライバシー&セキュリティ」論の延長にある。日本でも、また妙な「自主コード」や「認証制度」などを持ち出す連中が現れるかも知れない。

とにかく従来のプライバシー論では、これから実際にHealth2.0を進めることはできない。少なくとも、新しい何かの可能性を禁止するために、闇雲に「プライバシー&セキュリティ」を持ち出すようなまねは、もうやめなければならないのだ。

A Booklet “Health Transformation 2.0″ by Scott Danielson

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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